治秀主人の秀治さんと話がはずむ

2000年4月6日(木)

< 割烹 治 秀 >

30年もの食べ歩き取材で、我がグルメノートに二重丸のついてる店はごく少ない。その「ごく少ない」美味しい店を、最近改めて訪ねて確認しているのだが、これが本当に悲しい事に、3分の1も健在していない。

予約の電話を入れようとて、まず「現在使われておりません」で終り。
今日も候補に挙げてた好みの店は、もはや存在せず、3店目に「ここもダメかも知れない。」と思いながら電話すると、おかみさんの元気な声がした。

良かった、とにかく営業していた。ここ9年ぶり。
しかし南の島之内、道がややこしく迷ってしまう。携帯電話で道をたずねながら歩いてやっと到着!

格子戸を開けるとおかみさんの「いらっしゃーい」の声と共に、カウンタ−に座るお客さん達からも「いらっしゃい、お疲れさん」のごあいさつ。何だかうれしい。
お腹もすいて、道に迷ってウンザリしていた気持ちが吹き飛んだ。

カウンターに座ると目の前の花瓶にカタクリの花が活けてある。アラ、かわいい・・・
と見愡れているうちに出された突き出しには
カタクリのおひたしと鯛の子(3〜4月半ば迄がシュン)が。
よかった〜、お料理も期待できそう!!

よこわ造り、白エビ揚げ、ほたるイカ沖漬け、穴子アスパラ巻焼き、若竹煮(山科のやわらかーいの)等どれもおいしく平らげる。

山菜天ぷらは、春の香りがいっぱい!!
雁足・こごみ・わらびは似たような形をしていても、 味・歯触り・香りが全然違う。あしたば・しどけの青い葉、それにふきのとうのほろ苦さ、行者にんにく、まこもだけ、と楽しむ。

美味しいお酒のリストも豊富で魅力的だが、迷った挙げ句に『久保田万寿』を出してもらう。「無色透明のこの水が、なんでこんなにおいしいのかしら??!!」と、いつもの感慨にひたりながら舌鼓・・・

美味しいお酒とお料理を一層盛り上げてくれたのは、このお店のお客さん達。
「ここのね、この鯛の子ね、あたしゃもうこれに魅せられて来たんです。」と江戸っ子のおじさん。「いやもうこんなに美味しいのはここしかない、東京ではダメ。 このほのかな甘さと、薄味仕立て、感激しますねぇ。あたしゃ、これが食べたくて今もタクシ−飛ばして来たんですよ。」と一人客。

フト隣の人のお皿を見ると何と美味しそうなハゲの造りと、キモ!
「わア、おいしそ〜〜」
「そりゃおいしいですよ、ここのは絶品! 私はここへ来たら必ず食べますよ、どうぞおひとつ」という調子。

とにかく作る人、食べる人、みんなが「美味しいもの」の話で夢中。
こんなに幸せなひとときを共有できて、本当にすばらしい味と人との出会いであった。