『チエのニューヨーク』 株式会社鹿砦社発売、1,000円
( ロクサイシャ)
ニュ−ヨ−クで暮らした3年間を、8才の長女の眼を 通して描いた物語。
美しい自然がいっぱいのニューヨーク、色んな意味で エキサイティングな
ニューヨークを御紹介。文・写真・編集・レイアウトを総べて一人で仕上げま した。
美しいカラ−写真もいっぱいです。
<抜粋>
Big Voice Prize
パブリックスクール2年生の妹が 今日はものすごく威張った顔をして学校から帰ってきました。出来るだけ胸を突き出して歩いてきたその胸のところを見ると、色画用紙とリボンで作った勲章が光っています。 “MAKI BIG VOICE PRIZE ” と書いてあります。 スクール30に転入してきて9カ月目のことです。
ママが 「わー、マキちゃんえらかったねー、えらかったねー」とすごく喜んでいます。転入したばかりのころは ママやわたしが「マキちゃん、今日学校で なにお勉強したの?」って尋ねるといつも「マキ今日、カピしてたの。」というお返事。「カピって何かしらね?」と皆でよーく考えた結果"copy"である事が分かりました。先生のおっしゃることがよく分からないうちは、とにかく隣りの席のお友達がノートすることをただただcopyしていたようです。
マキの、初めての成績表には「非常に良い生徒です。なんでもよくできているが、特に算数は素晴しい。
英語の理解力も早いがspeakingについては最近やっとwhisper してくれるようになった。」と書いてありました。それにしても"whisper"には皆で笑ってしまいました。
シャイ なマキちゃんが、うつむいて恥ずかしそうにしゃべっている様子が目に浮かぶんですもの・・・
テストは何時もよい成績なのに少しもしゃべらないので先生にはどうしててなのか理解していただけなかったのです。だってこちらの学校では皆自由に質問したり、討論会をしたり、発表したり、すごく活発に発言するのでびっくりしました。それと先生は皆とてもよく褒めてくださいました。
それも抱きしめてほっぺたにちゅっちゅキスをして・・・ 「良いことをしたねー」といってはキス、「よく頑張ったわねー、先生は自分のクラスにあなたの様な素晴しい生徒を持って最高に幸せです。」と言っては又キス、「よくできましたね、先生のそばへいらっしゃい、力一杯抱きしめてあげたい。」といった調子です。
チエもよく褒めて貰って「今日もほっぺがビチョビチョーー」と言いながら帰ることがよくあったものです。日本の学校では先生はいつも何だかどなってばかりだったので戸惑いましたが、褒めて貰うとやはり嬉しいし自分に自信もついてゆきました。
夏休みのあいだ、6週間は私もマキも『デイ・キャンプ』 に参加しました。 キャンプと言っても毎日家から通うのです。 キャンプ場では、勉強は全然なくて毎日1日中運動やゲームや工作などをして遊びます。
楽しい事ばかりだし、言葉は分からなくてもお友達のすることをまねすれば何でもできます。特に私も妹も泳ぐのが大好きなので一生懸命泳ぎました。ランチのあとは 歌を歌ったり、いろんなゲームをしたり 麻縄を使ってタペストリーを編んだり、陶芸をしたり・・・
それでキャンプが終わるころには大体言葉は通じるようになりました。 皆のお話しは良く分かるのだけれどやっぱり声に出してしゃべるのは勇気がいります。
そういうわけで、元気よくお答えが出来るようになったという " Big Voice Prize" は ものすごく値打ちのあるものなのでした。
Halloween
ハロウイーンが近づくともう私達は其の話しでもちきりです。どういう衣装にしようか・・・どんな小道具がいるかしら・・・どこで買おうか? それとも手作り?
お友達に訊ねてみた。マリッサは手作りで天使エンジェルの白いケープとヘア飾り、ノーリーンは魔女になるから黒いマントと三角帽子を用意、カレンは何とお姫様のドレスとキラキラ光る冠まで用意しています。ところでこの時期はホールマークのお店やスーパーマーケットに行くとハロウイーン用の衣装がいっぱい出ています。 ミッキーマウスやピンクパンサーやピエロやスーパーウーマンやカウボーイなどなど・・・ プリントしたビニールの服とセルロイドのお面がセットになっていてこれですぐアニメの主人公になれるのです。
色々考えて見たけれど、結局のところチエもマキも日本から持ってきた着物を着ることにしました。
こちらではお正月にはいつも旅行しているので、大好きなチエの着物を着るチャンスがなかったからです。
お友達に日本の着物を見せてあげたいとも思ったし・・・ママはオレンジ色の大きなパンプキンを買ってきてナイフで目と鼻と口をくり抜き、中の種を出して部屋に飾りました。いよいよハローウイーンの日。
みんなそれぞれ仮装して集まりいちおうパレードをして廻ります。日が暮れて あたりが暗くなってきたら3人か4人くらいずつ組んで近所の家を訪問します。 といっても、挨拶は「Trick or treat?! 」のひとことだけ。 これで、そのお家の人はドアをあけ、私達に「Treat」を与えてくれる。
この場合は、いろいろなお菓子。 私達はそれを沢山貰うためにパンプキンの形をしたプラスチックのかごをもって歩く。 コンシュレートでは4棟あるアパートを全部回ろうとしたから大変。 すぐかごがいっぱいになってしまって、何度も家に戻ることになる。 でもとっても楽しかった。ピンポーンとドアホンを押すと、中から"Who is it?"の声。 そこで例の"Trick or treat!" をいう訳です。
そうするとおうちの人が出てきてくれて、ニコニコしながらお菓子とかをくれる。はじめからドアは開けっぱなしだったり、お菓子をおっきなビニール袋に入れて「好きなだけお取り」ってお家もある。あるいは、「訪問一切お断わり」とはりがみされているあうちもあったりする。 勿論うちのママは沢山のちびっ子訪問に備えて、いっぱいお菓子を用意していた。
ところで着物は大変人気だった。「これ、日本の着物ね?とってもかわいいわねー」と沢山の人から好評を頂いた。 ハロウイーンの衣装としては正当ではなかったかもしれないけれどこういうのもよかったなーと思った。
次ぎのとしのハロウイーンには日本人の女の子達のグループで力をあわせてかわいいお御輿を作りました。
そしてママ達が皆におそろいのハッピを作ってくれました。 お御輿にはペーパーで作ったお花をいっぱい飾って、頭には豆しぼりのタオルでハチマキをしてパレードに参加しました。 仮装パレードの中では何といっても一番人気でありました。ハロウイーンとサンクスギビングは、秋のメインイヴェントだったなー
Summer Camp
ニューヨークでは、夏休みが長い。三か月くらいある。だから大抵サマーキャンプに参加する。大体は4週間単位だけれど、2〜3週間の短いのや、毎日家から通うのもある。社会的団体生活の方法を身につけると共に、特殊な技能を伸ばしたり、得意なスポーツの腕を上げることなど、目的によってキャンプの種類を選びます。涼しい高原や美しい湖畔のキャンプ場で、二か月くらい過ごすのですが、その間勉強からまったく解放され、毎日毎日自分の好きなことや得意な事にのみ打ち込む訳ですから上達が早いです。
初めての夏は、2週間ピンズレイーデイキャンプに行くことになった。つまり、毎日ランチをもってバスで通うのです。同じ歳の子たちが集まって、インストラクター(大抵大学生のアルバイト)が2人で面倒を見てくれた。チエのインストラクターは二人、スーは少しぽっちゃり、髪はブロンドミディアムストレート、スーザンは少しほっそり、長めの金髪爆発頭だった。でも、とってもやさしくて、いつもグループではみんな笑顔が絶えなかった。毎日Tシャツと短パンで通った。
いろんな女の子と知り合えた。そう言えば、男の子と女の子にグループが別れていた。女の子だけで輪になって、歌を覚えたり、手芸みたいな工作みたいな事をしたり、プールで泳いだり、グランドで遊んだり。アーチェリーを初めてしたのもここだったな。なかなか本格的な弓矢を持って、的にむかいました。とても難しかったけど、なんとか的にあたるようになった時はうれしかった。
とにかく、毎日健康的に遊びまくりました。この時もママはお弁当に「おにぎり」をもたせたので、チエちゃんは初めちょっと恥ずかしかったです。勇気を出してみんなの前で出してみると、真っ黒な海苔が不気味なようで、「何これ?食べるの?」と注目を集めてしまいます。
「ライス・ボール」と誰かが名づけたそれを、みんなの前に出すのが嫌な時もありました。だって、まわりはみんなサンドイッチだしね。そうすると、インストラクターのお姉さんが、「ピーナッツバター&ジェリー」のサンドを作ってくれます。これは、本当に手軽で、たくさんの人の好物です。
1枚のパンにピーナッツバターを、もう1枚にジェリー(いちごジャム)をたっぷりぬって、2枚を重ねて食べるのです。ピーナッツバターはクランチ入りが好きな子もいれば、入っていない方が好きな子もいる。ジャムのかわりにチョコレートにする子もいる。ぴっかぴかの青空とお日様の下で、みんな芝生の上で、おしゃべりしながら食べたランチタイムはほんとのーんびりとしたよい夏休みの思い出です。
次の年は、泊りのサマーキャンプに行きました。イーストチェスター・スポーツキャンプ「ジムナスチックス」のキャンプです。これまで本格的な体操なんてちゃんと習ったこともないのに、体操が好きな仲良しのお友達に誘われたからです。これも年齢でグループを分けられて、毎日いろんな体操に挑戦します。でも、まわりのみんなの体の柔らかさに比べて、チエの体の固いこと。
ある日、一番好きだったトランポリンを練習中、とうとう背中が痛くなって我慢できなくなってしまいました。インストラクターの人は仰向けになって、膝を立てて寝ていなさいと言います。その通りにすると、ラクになるのだけれど、やっぱり起きると痛いです。突然、こんな練習、無理なんだよね?でも、ちゃんと毎朝起きるとみんなと同じようにレオタードを着て、一日を体操の練習に費やしていました。
このキャンプは、初めておうちに帰らないキャンプだったので、現地に送ってくれたパパと別れる時には、淋しくて泣いたような気がします。でも、パパは帰ってしまって、自分たちのお部屋に案内されて始めはちょっと心細かった。3週間のあいだ、毎日一日中一緒に過ごすのでお友達とはとても親しくなれました。この女の子は日本人だったけど、2人で話すのはなぜかいつも英語。「クロッグ」という、日本語でいう「つっかけ」を始めて教えてくれたのはこの子です。部屋とジムや食堂を移動するのにクロッグが便利だと教えてくれました。足元を見るとたしかに紐も何も無くて、らくそうです。
さっそくチエはパパに電話で報告します。"I need clogs!!"となぜか英語で訴えているチエ。パパは「クロック」と勘違いをして、「時計は持って行っただろう?」と取り合ってくれません。チエは何度も"NO!! Clogs!!"と一生懸命に繰り返しました。自分だって、覚えたばかりの言葉なのに、「えー、パパ何か分からないの?」みたいな感じで。
数日経った時このキャンプに参加したみんな集まって記念写真を撮ってもらいました。みんなレオタードの格好で芝生の斜面に座って写りました。チエはあの女の子と並んで、靴下がずれそうになって写ったの、よーく覚えています。
最後の夏はヒューガノットにあるキャンプ・マックアリスターです。この時も、ママはヨーロッパへ撮影に行っていたのでパパが車で送ってくれました。この時車を停めていたところにアーチェリーの的があったのをチエは見逃しませんでした、キャンプ中よく楽しみました。今回のキャンプは随分山の中にありました。森に囲まれた中にきれいな湖があり泊るところもお部屋ではなく、木の小屋です。
4つの2段ベッドがそれぞれの隅にあって、新入りは話し合いでベッドを決めます。薄いマットの上に寝袋で寝るのは去年と変わりません。この中のひとつのベッドはインストラクターのお姉さんが使います。長くいるので、淋しくないよう好きなものをたっくさん置いていました。写真も一杯貼っていました。
この小屋の仲間たちは、みんないろんな国から来ていました。今思うととってもスタイルのいい白人の子や黒人の子と比べて、日本人のチエはなんてちびで足が短く、寸胴だったのでしょう。まだ小学生なのにお国の違い、体型の違いがはっきり判りました。でも、見かけとか言葉なんて、仲良くなるのには全然関係ありません。それにすぐみんな真っ黒に日焼けして肌の色も変らなくなりました。
毎日一緒に、林の中を移動して、食堂に行ったり、湖で泳いだり、いろんなアクティビティをしました。キャンプの参加者全員が「どこどこチーム」とおっきなチームに分けられていて、それぞれ国の名前が与えられていました。そして、いろんな事を競うのです。つまり、私たちのオリンピック。チエはオーストラリアチームで、色分けでは赤だった。
全員が集まると、応援歌を歌ったりして、それはなかなか活気のある光景でした。一番楽しくて、一番はしゃいたキャンプだったと思います。ある夜、ものすごい雨が降りました。大急ぎで小屋に戻ってきたら、同じキャビンの子がいつも大事に持ち歩いているヘビのぬいぐるみを落としてきたと泣きはじめました。もう真っ暗になっていたし、雨も降っていたけど、みんな一生懸命になってぬいぐるみを捜しました。誰がみつけたのかは、覚えていません。でも、「あったー!!」という喜びは7人の子供たちみんな同じくらい大きかった。
それからおやつが届けられる日もチエはわくわくしてしまいました。事前にもらったリストから、ほしいものを選んでおくのだけれど、これが届いて自分のを捜す瞬間、とってもうれしかったのです。びっくりした事件といえば、キャビンの中にこうもりが入ってしまった時の事かな。、みんなで追いだそうとするのだけど、誰かが「これは吸血こうもりだー」なんて言い出すから、チエはちょっと恐くなりました。でも、みんな果敢にほうきでばたばたしたりして、撃退しちゃいました。そーんな事や、もっといろんな出来事がたっくさんあったサマーキャンプ、ほんといい体験でした。