Gourmet
 

大学でアートを専攻したけれど、就職に際してただの事務はしたくなくて、
選んだ職場が日本割烹学校の出版局。
毎月お料理の月刊紙1冊、ハードカバーでシリーズのお料理の本1册、
それに新聞社9社のお料理記事と、食べ歩きの記事。

サイクルはもう決まっている。
1週間で編集会議と、撮影用食器準備、次の1週間で本1冊分撮影。
フィルムがあがるまでに原稿書き、その後取り直しと原稿校正。
その合間に、新聞社の記事を分担して書く。
 

月刊誌は、私はいつも「食べ歩き」担当で、特集が例えば「ウナギ」なら
大阪・神戸・京都・名古屋で評判の良い店、あるいは隠れたお勧め店を探して取材する。

だが、台所用品の品質調べで、一日中各社のヤカンを高いところから落として記録する人。
インスタント食品新製品の批評を求められて、1日中、味見をしている人、
支部校の校長先生の料理ページを取材のため出張に出る人ナドナド、仕事はさまざまである。
以上の仕事を毎月6〜7人のメンバーでこなすのだから、夜の11時頃までの残業はしょっちゅうのこと。

しかしお給料は低く、ただ自分達の仕事が活字になって残ることの楽しみのみを心の支えにして頑張った。
 

しかし食べ歩きの習慣は、身についてしまった。
高くても不味いところ。高いけど材料の生きがよく、美味で満足できる店。安いけど結構イケル店。
いくら安くても2度と行きたくない店ナドナド。
それは、いろんな店を訪れて比較検討している内に見る目が出来てくる。

学校出てからン十年!自分の環境の許す限り、いろんな店を探訪した。
詳しくレポートもとり、いずれ『本当にお勧めできる店』なんていう本をまとめる積もりでいた。
というのも、アレコレ「食べ歩き」の本を参考にして出かけても、
「行って良かった、また行きたい」と思う店の確立は十分の一以下!
 

そりゃそうだ。私達が料理月刊誌の<食べ歩き>の記事を書いていた時も、
取材費と取材時間の限られた中で、いくつもの店を食べ比べるなんていうことを出来るはずもない。
せいぜい、色んな情報を集めてその中から、コレと目星を付けて取材に行く。
取材した以上は、悪いことには目をつむって、良い点だけを記事にする。
 

だから、全くフリーな身になって、責任を持って書ける店を探そう!と意気込んでいた。
書き留めた<グルメノート>も箱にいっぱいになった。

しかし、そのノートを整理しかけて、ある時ハタと気がついた。
グルメノートも30年も経ってくると、その間に板前さんが変わって、突然味が変わってしまった店もある。

20年前には「これぞ最高の味だ!」と喜んだレストランのフランス料理のフルコースが、
今では年齢的に口に合わなくてウンザリということにもなった。
 

とってもセンスがよくて、雰囲気がよくて、お料理もとても手がかかっていて、しかも美味でリーズナルプライス。 「オー、これぞ理想のお店!」と気に入っていたら、何と経営能力に欠けていて、次に行ったらつぶれていた…

そんなこんなで、やはり現時点で『本1冊分』のお勧め店を紹介するのは無理だと思った。

そこでそこで、せめてたいへん印象に残った店だけでも、思い出しながら書き留めたいと思う。