写真   吉川 直哉

Naoya Yoshikawa


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Profile

1961年奈良県生まれ。
'83年大阪芸術大学芸術学部写真学科卒業。

L.I.U./Southampton大学(NY)夏季講座で学ぶ。
'96年大阪芸術大学大学院芸術文化研究科博士課程前期修了、修士号取得。

日本各地、アメリカ、中華人民共和国、大韓民国などで個展、グループ展など多数。第5回日本グラフィック展協賛企業賞授賞。'98年から2000年にかけてポーランド、チェコの各都市を個展が巡回。

主な作品収蔵: インド写真芸術センター(ムンバイ)、日本写真図書館(NY)、西安美術大学(中国)、塩江美術館(香川県)、efコレクション(以下、ポーランド)、クオヅコ芸術文化センター、国立グダニスク美術大学、国立ポズナン美術大学、ヴロツワフ歴史美術館、ウォームジャ芸術文化センターなど。

平成12年度文化庁派遣芸術家在外研修員に内定され、9月より1年間ニューヨークにて研修の予定。

 

 <作品価格>

16インチ×20インチ 55,000円
限定25部です

8インチ×10インチ  30,000円
同じく各限定25部

印刷媒体に使用する場合、別途相談させて頂きます

 

< 作品解説 >

森の記憶は、90年代から制作を始めたカラー作品のシリーズです。自分に最も 身近かな原風景を、幼い頃によく遊んだ春日山の原始林をテーマにしています。
そこには、覚醒成分が含まれる馬酔木(あしび)が茂り、他の樹木に影響を与えるほど生命力をもつ、神事に使う榊も見られます。また春日大社では、シルクロードを経てペルシャから強い影響を受けていると思われる、火や水を使った森の中の神事パフォーマンスが九百年以上行なわれています。また、火のパフォーマンスとなった山焼きの行事、東大寺のお水取りもあります。

日本各地には森にまつわる神事や風習があります。西洋にも、森を舞台とするロビン・フッド伝説等たくさんの物語があります。このように私たちにエネルギーを与える力を内包する森の魅力はつきません。

私は小さい頃、その森によく遊びに行き、木々の間をぬけ、茂みを分け、兜虫などを探し回りました。樹木茂る奥深くでは、まぶしい陽さえ枝葉に遮られ、ひんやりとした空気が流れています。見上げる樹木の形や色、茂みにうごめく小動物、そして目に見えない森のエネルギーに、みぞおちがムズムズします。

そのワクワクする記憶の原風景を写真で表現しようと、カメラに広い視野を持つ超広角レンズをつけ、そして、その記憶を強調するために、ストロボやライトで風景を浮き上がらせています。美化した記憶の誇張に、ストロボに映画照明用の色フィルターを貼付け、風景の一部に色を照射したり、ライトを使い、映像をコントロールしています。奈良の森以外にも各地、またアメリカで撮影したものもあります。

                           吉川直哉

 

< 評論 >

ヨシカワは風景を単に対象とするのではなく、風景を通して思索するアーティストのひとりである。自然はヨシカワの美学を構成する重要な要素だ。彼はこの姿勢で創造への探求を重ねている。テクノロジーよりも自然を賛美し、また厳粛に芸術性を高めようとするアーティストは日本に多い。これはアートを通して物事の本当の価値を見ようとする姿勢だ。

自然との瞑想は東洋のアーティストによく見られる。それは伝統文化でもあるだろう。一方、テクノロジーは個人的な体験と自然を理解する道具である。しかし、テクノロジーは芸術的な創造のためや、自然を再現させるためだけの道具ではない。東洋のアーティストは自然に向かうことが多い。

人工的な要素をはぶいて、より自然に近づくことは、人間性をも高めることにつながる。そして、それがアートへと昇華する。 それぞれの対象に大きな価値を求めず、すべてを一体化して見る東洋思想がある。個はすべての中に存在する。つまり、個は宇宙を構成するものであり、それは永遠の関係である。ヨシカワの風景との対話はその思想から始まっている。その対話は、彼の経験、観念、空想、理想(唯心論的)などから生れる。

ヨシカワが表現する森は、彼が少年時代、遊びふけった「場」である。彼がカメラによって再現した記憶の世界は、超自然現象や巨大生物のようでもあり、また神道的な儀式をも思わせる。ヨシカワの創造した世界は過去と夢からできている。フィルターでコントロールされたストロボやライトの光は、樹の根や枝葉を照らし、超現実的な世界を描く。青、赤、オレンジの光が曲がりくねった幹や分厚い葉に照射されると、神秘的な空間がそこに浮かび上がる。それらがメッセージを生み、早朝の光とともに描かれる「森の書」が誕生する。また、陽の光は細部を描き、意味を深める。

その「言葉と形」には彼の幼い頃の体験と感動が秘められ、喜びと無限の時間が不思議な神秘の世界へと導いている。「森は人々にエネルギーを与える」と彼は語る。この言葉からも、この作品群が彼の過去の経験と想像を基盤として創り上げられていることが想像できるだろう。

          イェジ・オーレク(アーティスト、評論家)

 

 

ヨシカワ・ナオヤの作品は、いかに人間が自然を理解するかを見事に表現した一例と言えるだろう。光の効果を使い、作家は全く異なるもの(斬新なもの)を創り出している。「森の中の全てを愛する」とアーティストは語る。それは、木々や枝や葉、色彩豊かな森の記憶が、カメラを通して、私に日記のページをめくらせるかのように思える。

ヨシカワの写真作品は、物語の世界の夏の思い出のようである。かつて、私たちがしばしば訪れたであろう秘密の世界を、このアーティストの作品を介して、私たちは垣間見ることができる。そして、私たちは、その物語の世界の中に、観客として招かれた思いがする。

          ECHO紙(チェコ共和国、1998年)