JTU競技規則<改定案と補足説明と事例集>
第1章 総則 第1条(制定の基準)
第1条(制定の基準)
- 日本トライアスロン連合(以下、JTU)競技規則は、国際トライアスロン連合(以下、ITU)競技規則(ITU Competition Rules) に準拠して制定された。日本国内のトライアスロン競技、デュアスロン競技および関連複合競技に適用される。
補足説明
- 海外/国際大会に参加する選手は、ITUルールを「国際共通ルール」として知る義務がある。当ルールは、各国競技団体(National Federation : NF)から入手すべきことが合意されている。しかし、現実には、言葉の問題もあり完全には周知していない。時として問題が起こる。
状況例
- 海外招待の米国選手は、国内の海外招待大会でのバイク競技中、暑さによりランニングシャツを脱ぎ捨て競技を続けた。
- 本人は、米国トライアスロン連盟(Triathlon USA)のルールが「一般にバイクでは上半身裸で競技してもよい」ことを理由に、失格裁定に抗議した。また、日本のルールがこれを禁止していることを知らなかったことも強調した。
判断例
- 過去、ITUワールドカップルールでは、米国ルールが尊重され、バイクでのシャツなし走行が認められていた。(世界選手権では不可)
しかし、海外(日本)大会参加ではこのローカルルールを知る努力が求められた。「国際共通ルール:選手は、みずからルールを知る義務がある」
- 主催者は、選手にルール教える義務がある。国内ルールの告知が、英語でしっかりと行われたか。口頭のみならず文書でもこれが行われたか。
- 審判長や技術代表は、選手に「全ルール」の周知徹底が図られていたか、確認義務がある。これが不十分であったことは、主催者と技術・審判双方の反省事項である。
- バイクマーシャルが、当選手に適切に説明することができたか。あるいは、通訳を配置していたか。
- 結果、選手が強く反省し、主催側の落ち度も認められたため、双方の注意を喚起し、選手には「警告」を与えた。
- 以上を、交通事故の裁判で適用される「事故の過失割合」を手本に、選手と主催者の責任を比較すると次のようになるだろう。
選手のルール認識義務違反(−100%)
主催者のルール周知義務違反(−20%)
審判員のルール運用義務違反(−30%)
- 各種の要因があり、この割合は裁定者によっても異なるだろう。審判長が、裁定をするときの重要な考え方は、「選手責任から主催者責任を相殺して裁定を行う」ことだ。
- 以上の総合責任割合は、「選手100%」−「主催者側責任50%」=「選手実質責任50%」となり得る。
100%を超えるようであれば、失格でしかるべきだろう。しかし、この数式から「警告」は妥当と判断される。
- 国際大会としての準備不足があれば、国際言語で起こりえる誤差の割合(20%)を差し引くことも必要かもしれない。さらに選手責任が軽減される要因となるだろう。
- ただし、この大会の“開催目的”が「国際親善」であり、主催者に厳しく選手にやさしい適用となったものである。
- しかし、全国テレビ放送などが入った国際選手権レベルであれば、レースナンバー(ゼッケン)のスポンサー表示が見えないなど、結果的に主催者に明確な“損害”を与えており、選手責任は50%ほどはアップしていると考えるものだろう。これにより、「選手実質責任50%」に50%に加わり失格となりえるものだ。
- さらに言及すれば、それでも高額な予算で招待した選手を失格にしたくないという主催者心理が働く。しかし、審判の権限はどうするのか..。
- このようなケースが国際的にも多く、ITUは、「主催者に与えた損害対価」として“罰金”を取ったらどうか、ということを前向きに検討している。
- もちろん、危険行為やドラフティングなど「審判判定」に係わることまでも、罰金で済ませようとしているものではない。
第1条(制定の基準) <表現修正>
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- トライアスロンは、スイム(水泳)・バイク(自転車)・ラン(ランニング)の3種目で構成する複合競技 (マルチ・スポーツ)である。
- デュアスロンは、トライアスロンのスイムをランに代えて競技する。第1ラン・バイク・第2ランで構成する。
- いずれの複合競技も、ひとりの競技者が連続して行う。リレー競技などは別途規定による。
補足説明
- 3種類を競技してこそ「トライアスロン」であり、各種目の制限を不必要に厳しくすることはしない。
- 大会での交通規制から厳格な規制時間をポイントごとに設定することがある、一般には「目標タイム」や「標準タイム」として審判員の裁量に委ねるレース運営が望まれる。完走あってのトライアスロンであることを忘れないで。
- 一方で、目標・標準タイムは、選手権大会である場合、重要な目標となる。多少の悪条件があっても軽くクリアする競技力をもって大会に参加することが求められる。
状況例
- 「51. 5キロ」トライアスロン・ディスタンス(旧名称:オリンピック・ディスタンス)の大会のスイム制限時間が、25分に設定された選手権大会である。
台風の余波でスイムコンディションが悪く、多くの選手がスイムでリタイアを余儀なくされた。
- これに押されるように、バイクでも関門通過できない選手が続発した。バイクで制限オーバーとなってしまった選手が、これを「余りに不適切である。悪条件を考慮していない」と抗議した。
判断例
- 基本的な考え方は、競技区分に応じあらかじめ無理のない制限時間を設定する必要があったことだ。制限時間は守るべきであるが、状況により柔軟な対応を心掛ける場面である。
- 当初設定されたスイム制限時間を、悪条件にも係わらずそのままとしたことの良否。競技条件の最終確認と的確な対応がなされたか。
- スイムの制限地点は一般的にスイムフィニッシュの計測地点であろう。25分の秒単位での正確性に問題はなかったか。その判断の方法は正しかったか。検証したい。
- スイム制限は25分以内であっても、トランジションをスタートする制限を設けたか。
- トライアスロンは特に、参加するための負担が大きい。だからといってルールを大目に見てよいものではない。しかし、「安全の範囲での完走」は、基本といえるだろう。この気持ちが、競技者の完走努力を温かく支える主催者そして審判員の努力につながるものだ。
- 競技者は、「第9章 抗議」の手順にそって、競技者の競技終了後60分以内に正式な手続きによる抗議を行ったか。(第1次は口頭で審判長に、次ぎに書面にて)
- 審判側は、主催者との連携により、事前のコース状況確認により、「スイム制限タイムを、スタート前に調整」することがより良い判断であったことを再考する。
- 抗議は受け入れられないが、主催者の今後の対応を強く求める。同時に、当競技者には、大会主催の難しさを認識願う。さらには、「競技者自身からも、制限緩和依頼」を要請する権利があることを知らせる。
- 大会は、「主催者+審判員+競技者」でつくるものである。
第1条(制定の基準) <表現修正>
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- 関連複合競技は、トライアスロンを基本に種目を変更して構成する。
- 関連複合競技は次のとおりである。
◇ウインター・トライアスロン
◇クロスカントリー・トライアスロン
◇インドア・トライアスロン
◇マウンテンバイク・トライアスロン
◇アクアスロン(スイム+ラン)
◇特殊インドア・トライアスロン
◇カヌー・トライアスロン
◇他関連複合競技
- 競技により種目変更のインターバルタイムを設ける。
補足説明
- 種目を変更してトライアスロンがさまざまに変化することが、トライアスロンの面白さの秘訣でもある。シーズンオフの練習種目であったデュアスロンが世界選手権にまで発展した。ウインター・トライアスロンも同様に95年から世界選手権が実施され始めた
- インドア・トライアスロンは、ITUが認定する世界選手権としてフランスで開催されている。特設プールの設営など巨額の運営費が必要であるが、数万人の有料観客を動員し広域に生中継される注目イベントである。
- エルゴメーター、トレッドミルを使ったものもトライアスロンの一種である。疑似体験からスタートするユニークさがある。企画を統一すれば“メカニカル・トライアスロン”の選手権ができるかもしれない。
状況例
- インドア・トライアスロン世界選手権で、スイムから上がったアスリートのウェアから水滴が落ちてバイク用バンクを濡らし危険が生じた。
判断例
- その場は、イエロー・フラッグで注意を促し、翌年から "Neutralized" time という特別規制タイム10秒を設け、タオルで拭き取ることを義務とした。
- “問題が起きれば”新たなルールが研究される一例である。
第1条(制定の基準)
- JTU競技規則は、ITU競技規則、関連競技団体の規則、道路交通法および各所轄機関・団体の規則で補足される。
補足説明
- JTU規則は、ITUルールに準拠し、制定されている。ITUルールは、国際オリンピック委員会(IOC)指針に従い、国際水泳連盟(FINA)、国際自転車競技連合(UCI)、国際陸上競技連盟(IAAF)を参照している。
- さらに、競技コースに係わる諸規則が加味される。これにより、本規則で対応できないときは、それぞれの該当ルールに照らし、裁定を行うことになる。
- ITUルールの制定初期には、各国競技団体が実施ルールを持ち寄り、国際ルールとして統合した。各国のルールは、バイクであれば自転車競技連盟規則を参考にし、トライアスロン界が独自に厳しすぎないルールを制定している。
- ITUルールの原点は、水泳、自転車、陸上の各ルールを根拠にトライアスロンらしくアレンジしたものと解釈される。ITUルールで不明な点は、これらの原点に照らし解釈するのは自然である。
- これらルールは、実施の段階で難点が出てくるものである。そのつど検討され、トライアスロン独自のルールが確立されようとしている。
- 「広域に開催されるトライアスロン競技の特性」を、主催者と競技者がともに理解しあいスポーツの発展に貢献する意識を向上させたい。
状況例
- 競技者は、バイク競技中に「黄色のセンターライン(道交法では、追越し禁止)」の右側部分にはみ出して走行を続けた。バイクマーシャルのチェックはなかったが、複数の定点マーシャルがこれを確認報告した。
- レース終了後の確認で、競技者は、違反箇所が数箇所であったことを補足しながらも、事実を率直に認めた。
- その結果、失格と判定した。競技者は、わずかな部分であり、大会用にバイクコースは規制されていることを理由にこれに抗議した。
判断例
- 運営の確認としてまず、主催者が、競技説明会および事前の文書でも、バイクコースを「完全規制」と明記したかどうかを確認する。一般車両が規制されていても「全コースの完全規制」は一般的に少ない。主催者は、できれば応募の段階から、「規制状況を詳細に説明」するとよいであろう。
- 規制があっても、「交通規則は守らねばならない」ことは常に強調すべきである。
- 社会通念として、競技者は、「規制状況も含めたコース環境」を知る義務がある。さらに「誓約書」において、これを確認している。また、「安全な競技遂行義務」を認識する必要がある。
- 審判側は、競技説明会あるいはそれ以外での認識徹底を強化する。「バイクマーシャルの空白区間をつくった態勢」を反省し、来期への課題とする。しかし、完全に競技者を掌握するバイクマーシャル態勢は、難しいのが現状である。
- 当競技者は、交通違反と安全順守義務を怠るという2重のペナルティ対象となる。ルールの文面に従えば失格とされてもしかたないだろう。しかし、ほんのわずかのルール違反であり、他競技者への危険があったものでもなく、厳しすぎる裁定であろう。
- さらに考慮することは、当大会が、選手権レベルであったのか、一般大会であったのかによって裁定に情状酌量の余地が生まれる。一般大会であれば、「厳重注意」とし本人の猛省を促し、同時にこれを他選手にも周知するため告知することになる。
第1条(制定の基準) <改定案>
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- JTU競技規則は、大会に出場する競技者に継続的に適用される。
- 大会は、出場準備期間、大会期間、ペナルティー、上訴にかかわる事項を包括する。
<旧ルール> 6.競技とはスタートからフィニッシュまでと定義される。本規則は”競技”およびこれに参加する”競技者”について適用される。よって、大会の前後においても本規則を適用する。
補足説明
- 95年のITU総会は、「世界選手権の会場では、大会1週間前からバイク乗車中は、規定のヘルメットを着用することを義務付けるルール」を可決した。
JTUでは、ローカルルールとして対応してきたが、98年からルール化予定である。
状況例1
- 大会3日前に大会開催地に着いて、気晴らしに海岸線の道路をバイクで走行していた。散歩気分でのゆったりとした走行でもあり、ヘルメットは付けていなかった。これを、大会関係者が発見、審判長に報告、注意を促した。「大会日程前であり特別な注意を受ける必要はない」と主張した。
判断例1
- 「競技者の安全」の理念により、大会以外でも「ヘルメットの装着」を事前から促すべきである。
- 競技者は、安全上の問題はもとより、スポーツに取り組む姿勢としてロードレーサーに乗車中はヘルメット着用が必要であり、これを認識するべきである。
- 練習中であっても、ヘルメット着用なしで重大事故が起これば大会開催に支障を来す。
- 「万が一の場合の大会への影響」を説明し、理解を求める。
状況例2
- 出場資格を第三者に貸与した理由で、6カ月の出場停止処分を所轄の競技団体から受けていた競技者が、管轄以外の大会に出場した。
判断例2
- JTU競技規則が、競技者にどこまで関与するかの例である。従来の規定では、焦点がややあいまいであった。当改定によりJTU競技者規則の関与範囲が広がる。
- JTUが直接関与する国内大会は、主催・共催、後援大会であるが、広義において、すべてが「JTU認知大会」といえる。このことからも、JTUルールの広い普及そして徹底が望まれる。

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