JTU競技規則<改定案と補足説明と事例集>
第2章 競技者規範 第5条(競技者と競技実施)
第5条(競技者と競技実施) <加筆修正>
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- トライアスロンそして関連複合競技は、一般公道施設を使用して開催される。そのため、完全に監視・救助体制を取ることはできない。競技者は、各競技種目の特性を理解し、これに自ら対応しなければならない。
- 競技種目により規定される「競技スペース」を守り競技を行う。特別に許可される以外は、他競技者の競技スペースに入ってはいけない。
(以下削除:オリンピックスポーツであるトライアスロンでは、各競技者がそれぞれの種目と状況に応じて規定される「競技スペース」を守り競技を行う。そのため、特別ルールが許可する場合を除き、他競技者の競技スペースに侵入してはいけない。
補足説明
- 陸上のトラック競技と違いトライアスロンでは、個々のコースが決められていない。いわばオープン・スペースに多くの競技者が、「制御しずらいルール」のもとに競技しなければならない。勝利を目指し、あるいは目標のために前に進もうとする。
- トランジションという他の競技にはないものがある。
- ここで各競技者そして個々の用具を守りスムーズな競技進行を図るために、「競技スペース」という概念が必要となる。これは、バイクラックでの明確なスペースやドラフトゾーンなど数値化されたものがある。一方で、想定される大半の競技スペースは、競技の進行につれて想定される。
- 競技規則としては、不明瞭ともいえるが、マス・スポーツとしての特性があるトライアスロンでは、安全で公正な競技を行うために第一に認識されなければいけない。
- 同時に際立って重要なことは、競技者が「競技スペース」を守れるコース設定と運営に適合した「適正参加人数」を守ることである。
状況例
- 平坦で直線が続くバイクコースで500名の一斉スタートが実施された。スイムからバイクに移るとドラフトゾーンを守ろうにもギッシリと詰まっていてどうしようもない。
- 集団で疾走するグループ、これを避けようとする競技者。マーシャルは自動2輪ではなく4輪車のため、近づいて注意を与えることが難しい。
- 結果、集団走行を継続したと裁定された100名近くが失格となった。
判断例
- 適正参加人数の誤り。ウェーブスタートなしの未熟な運営。バイクマーシャル不足など主催者の反省点は多い。
- 競技者は、事前にコースや運営に対して改善要求をすることが許されている。これを怠ったと判断される。競技者に対する厳しい要求であるが、大会は主催者のみが作るものではなく競技者そして審判員がより良い大会を目指すものである。
- 審判団にとって苦渋の選択を迫られる場面である。競技者は、意志に係わらず集団を抜け出せない、物理的なオーバー状態である。
- このケースについての今日のJTU体制で判断すれば、次のとおりとなるだろう。
- 該当競技者の全員失格を容認する。
- 主催者そして技術・審判担当者には、所轄競技団体から、注意指導。
- 失格となった競技者そして参加者には、来期の明快な改善提案を提出。「二度と起こさない決意表明」を行い、競技者の労をねぎらう。
第5条(競技者と競技実施) <表現修正>
- 競技者は、技術・体調・経験そして周辺状況に応じた的確な判断により、最適な方法で競技を行う。そして、次のことを励行しなければならない。
- スポーツマンシップを守り、社会人として責任ある言動を心掛ける。
- 社会的モラル・マナーについても、競技者の良識が尊重される。同時に、大会を支える関係者・審判員や観客を尊重する。競技者と主催者側がともに信頼しあえる関係を構築する。
- 次のことは、これまでに提起された問題である。何よりも重要な、大会の存続のために競技者の理解を要請する。
- 受付(挨拶の励行)
- 競技説明会(雑談や前座席への足の投げ出しを慎む)
- パーティ(乾杯前の飲食、雑談、車座座り、飲食物の勝手な持ち帰り)、
- フィニッシュ後(裸での観戦)
- 表彰式(サンダル履き・帽子着用禁止)
- バイクコース下見・練習中の「交通ルール無視(信号無視、交差点での不正右折、集団走行/並走など)」は、競技者の重大事故に直結し、禁止する。ヘルメットの着用義務についてはバイク競技規則を参照する。
補足説明
- トライアスロン大会では、数多くの選手が参加するため、選手同志の駆け引きはレース上の重要な事項である。例え自分の状況に応じてのみ競技すれば良いものではない。
- 「トライアスリートである前に、社会人であれ」といわれるゆえんである。
- 「競技ルールは、社会常識・ルール・マナーを基本に制定されている」。この精神を前提に、トライアスロン競技は実施できる。
- 「競技者は、良識ある社会人」と同様に、「審判員も、良識ある社会人」であることが求められている
状況例
- ロングディスタンスの大会で、豪雨で冷え込みが激しく、道端で小用をする選手が多数いた。ただし、ほとんどの競技者は、出来るだけ目立たない地点に隠れてする“善意”は感じられた。
判断例
- 運営面からは、仮説トイレの設置の増設と事前の表示案内が必要。
- 一般公共施設を、大会専用トイレとするなどの運営努力。
- 審判面からは、「隠れてする意識」を重視する。ただし、トランジションや主会場周辺などで堂々とするようなケースは厳重な対応が必要。
いずれにしても、裁定には「場所の問題」と「当事者の意志」を審判員がどのように感じたかによる。
- なお、マーシャル自身も、審判業務中にコース脇の適当な箇所で行うことがある現実を認識し、一方的な裁定は避けたい。
第5条(競技者と競技実施)
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- 競技者は自らの安全に責任を持つとともに、他競技者の安全にも配慮する。
補足説明
- 本条項を基準に、各種危険行為が禁止されている。また、各競技別に具体的に示されていないことでも、他競技者への危険行為と見なされることは多岐にわたる。
状況例
- 直線バイクコースで、前を走る競技者が、急ブレーキを掛けた。そのため、後続競技者は避けきれず転倒した。本人の競技終了後、規定に従い30分以内に抗議した。抗議を受けた競技者は、路面に不正箇所があり「安全上の理由」を説明した。
判断例
- 競技者には、つねに前方確認と瞬時の対応が求められる。
- 審判員には、状況により転倒のあった現場確認が求められる。
- 「自己の安全に責任を持っての行動」であったが、結果として、「他競技者の安全」に配慮できなかった。前方確認をより良く行っていたら、早めにスピードダウンが出来たかもしれない。
また、後続競技者は、十分な車間距離を開けていたとは思えない。双方の注意義務が、不十分であった。そのため、裁定は、教育的指導とするのが適切であろう。
- 責任度合いで判断すると、前方競技者は、「急ブレーキの危険80%」の責任度合いがあると想定される。これから情状酌量の度合い「安全のため(50%)」を差し引くと、「30%の責任が確定」するだろう。後続は、「前方不注意の度合い100%」に、突発的であったことを加味すると「50%程度」の責任相殺がされるであろうから、責任度合いは、「50%」にとどまる。
前方競技者の責任30%、後続競技者の責任50%となり、両者への「教育的指導」の判断は適当といえるものだ。
- なお、後方競技者は、エアロポジションで対応が遅れたことは、用具に係わりトライアスロン界が根本的に取り組まねばならない重要課題である。
第5条(競技者と競技実施)
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- 競技ルールを良く理解し、実行できるよう心掛ける。
補足説明
- ごく当たり前の条項であるが、これがなかなか守れない。競技中は、必然的に競技者は「ベストを尽くすための興奮状態」にあるといってよいだろう。
一方、主催者は「地域振興の大会であり、ルール適用は重視しない」などという場合もある。
- 実践するには、ルールブックでの理解に加え、実施での経験が必須のものである。選手そして主催者が、ルールの認識向上そしてステップアップするための練習、地域での訓練が必要となる。公認審判員そして技術関係者が促進する地域活動の一つである。
状況例
- 「トランジションエリアの乗車禁止」の新ルールが発表され、加盟団体に通達された。しかし、競技者に十分伝わっていない。本件で注意を受けた競技者は、「知らなかった」という。
判断例
- ルールは、「競技コースそして運営形態により、適用が微妙に変化」する。そのため、競技者が、個々のコース状況に併せて柔軟にルールあるいはローカルルールを守れるよう、コース説明と重要な事項を事前に競技者に知らせることが必要である。
- 「ルールの適用範囲は、運営の完成度合いに比例する」。例えば、乗車ラインにハッキリと線が引かれていない、あるいは、競技が進むに従いこのラインが薄れてしまっているなどの場合がある。
- 「コース状況は、レースの推移により、刻々と変化する」。スタート直後に100%であった状態が、後半は50%の状態になってしまうことがある。技術担当者そしてマーシャルは、この状態を正確に見極め、コース修復の指示を出す、あるいは自ら対処することが必要である。
- 裁定に当たっては、変化の度合いに応じ柔軟に対応できないと、審判の一方的な裁定で終わってしまう。結果、競技者に納得のいかないレースとなる可能性がある。
第5条(競技者と競技実施)
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- 道路交通法で定める交通規則を順守し、警察官・役員の指示に従う。
補足説明
- トライアスロンが実施されるすべてのコースが所轄警察・施設の管理下にある。例え、完全規制が敷かれたコースであっても、交通規則そして特別に定められた規則を守ることは、基本の基本といえるものである。
- 規制されたコースであれば、「停止や注意の看板類は、注意して進行する」と理解するものだろう。
状況例
- 「大会」であり、競技コースは自由に使えると思って道路の中央付近をバイクで走っていた。左側を通るように注意されたが納得が行かない。
判断例
- コースの両面完全規制が敷かれているときは、センターラインを越えることも容認されるだろうが、片側規制あるいは一般使用許可のレースでは、厳重な順守事項である。
- 競技ルールはもとより、交通規則でも罰せられるものである。さらには、これが守られないと、大会の存続に大きな影響を及ぼす。このことを競技者に説明し、了解してもらわなければならない。
第5条(競技者と競技実施) <追加(以下、全文)>
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- 競技者は、大会固有の実情を理解し、困難が伴う運営に協力し、大会の繁栄を促すことが求められる。同時に、競技者の権利として認められる抗議・上訴の前に「意見提出」「状況説明」を行うことができる。
- 他競技者あるいは競技者自身にルール違反が認められた場合、状況を大会本部または審判長に報告することを奨励する。
- 競技中に、注意・警告・失格の宣告を受けた場合、競技者のレース終了後60分以内に、宣告を受ける原因となった行為・状況について審判長に弁明することが許される。
- 審判長裁定や大会全般について納得できないときは、第9章および第10章により抗議や上訴を行うことができる。これにより、競技者は、大会組織と所轄競技団体において問題を調停することが求められる。
補足説明
- 審判員は、「競技者は、審判されるばかりではないこと。競技者には大会に参加するに当たっての権利があること」を重要な相互干渉事項として認識しなければならない。
- 競技者がマーシャルから一方的に裁定を受けるばかりではないことは当然であるが、この認識を持つマーシャルは少ないようだ。
- 競技者と審判員が、同等の位置で、トライアスロンの向上に努めるための重要なテーマのひとつである。
- 審判員が納得しても、あるいは主催者が満足しても、必ずしも良い大会とはいえない。“成功した大会”とは、例え難問を残しても、「競技者が納得したかどうか」によるものと心得たい。
状況例
- レース中、坂の下り付近でインフレーター(空気入れ)を落としてしまった。「後続選手のことが気になりながらも、急停車できない。戻って拾わなければいけない...」こんなことを考えながらも、数キロが過ぎてしまいそのまま次の競技に移った。
どうしても気になり、ラン・フィニッシュ後、失格覚悟で大会本部に「自らがルール違反を侵した」ことを申告した。
判断例
- このような競技者が多くいたら大会のマナーは向上するだろう。まずは、大会の完走をねぎらい、自己申告に感謝するものだろう。
- 備品類を良く固定しなかった義務違反がある。このケースでは教育的指導となろう。
第5条(競技者と競技実施) <追加(以下、全文)>
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- 競技者は、大会主催者の規定により「誓約書」の内容を了解し、この確認のために著名し提出する。
JTU主催・共催大会での誓約書は、巻末に示したとおりとする。
補足説明
- 誓約書には仕方がないから誓約書に署名しているという選手が多いようだ。ルールで明記し、主催者と選手を結ぶ誓約の意味を考えてもらうことが大切である。
- トライアスロン大会は、いくら運営技術が発達し、救助体制を確立しても、「選手の自己責任」そして「注意義務」がなければ開催できないといえる。
- 主催者がベストを尽くし、これに選手が応える。また、選手がベストを尽くし、主催者そして技術・審判員がこれに応える。

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