JTU競技規則<改定案と補足説明と事例集>
第3章 共通競技規則 第13条(ウェア・レースナンバー・競技用具・備品)
第13条(ウェア・レースナンバー・競技用具・備品)
- (ウェアと規定用具)
- 競技ウェアは、機能性、安全性にすぐれ競技にふさわしいものであること。仮装や一般良識(公序良俗)に反するものは適切ではない。
- 種目別の基本ウェア・用具は、次のとおりである。
- スイム競技:スイムウェア、スイムキャップ。ゴーグル。規定によるウエットスーツ。
- バイク競技:上下ウェアにヘルメット、シューズ。バイク用具一式。
- ラ ン競技:上下ウェアにシューズ。スポーツキャップ。
- 大会期間中も、スポーツマンとして整ったウェアを着用する。
補足説明
- ウェアは毎年、斬新なものが登場するようになった。男子が女性のようなワンピースを着用する。「ふさわしいウェア」というルールの解釈は、主観の差があり難しい。
- 昔は、水泳パンツで、バイク・ランを競技することに違和感があった。しかし、世界から日本に導入され、いつの間にか定着した。
- それでも、始めて目の当たりにする観客には違和感があった。トライアスロンはトライアスリートのためだけのものではない。「観客に違和感があった」という事実を忘れてはいけない。
状況例
- フンドシで泳ぎたいという希望があった。
- 帽子に動物の耳飾りを付けて走っていた。
- 帽子の回りに大きな日除けネットを付けていた。
- ヘルメットに風車のようなものを付けていた。
判断例
- 1)は不可。2)−3)は一般では注意。4)は、転倒の際に危険を伴う可能性が高く、2)3)より違反度は高いといえる。「厳重注意」あるいは「警告」となるだろう。エリート、選手権レベルであれば、失格が当然といえる時代となった。
第13条(ウェア・レースナンバー・競技用具・備品)
- (レースナンバー/ゼッケン着用義務)
- レースナンバーは、腰回りから下にならない正しい位置に取り付ける。
- 安全ピンで4隅を確実に留める。4隅と外周をしっかりと縫い付けることを奨励する。
- <98年追加案>レースナンバーベルトは、常に全体が見えることを前提に使用を許可する。腰回りから極端に下にならない配慮を求める。
補足説明
- 従来呼称のゼッケンは、国際的に通用しない。トライアスロンでは、「レースナンバー」を正式とする。これは、番号そのものを示す場合と、素材を含めて呼ぶ場合の両方に使用される。ただし、特に、素材部分を含めた意味で呼ぶ場合は、レースナンバー・ビブと呼ばれる。
- 当呼称が一般化するまでは、文章の冒頭では「レースナンバー(ゼッケン)」と表示し、それ以降は単にレースナンバーとしたい。
- 「ナンバーカード」は、英語的には固い質感を感じさせるもので「バイク・ナンバー・カード」としては通用する。
- レースナンバーの問題は、当初、ピンで留めていた時代から縫い付けを奨励し、効果を上げた。しかし、欧米ではレースナンバー・ベルトが男女ともに許可され一般化していた。さらに、男子のワンピースウェアの登場で、レースナンバー・ベルトを女子のみに認めたJTU独自のルールに変化が求められている。
- ワールドカップなどでは、レースナンバーベルト着用の数秒のロスを避けるため、ウェアーにレースナンバーを縫い付け、これをウェアごとスイムパンツに入れる競技方法が一般化した。
- 素材については、綿素材、不織布(切れやすい)、化学紙(タイベックス)が使用される。それぞれに長所短所があり、いずれも理想とはいえない。
- 今後、「よれない、強い、スピーディ」を趣旨に新規の方法を開発したい。さらには、別途の方法でスポンサー表示を確保し、これを廃止することも検討の要ありだ。
状況例
- ジュニアの大会で、バイクスタート直前の上位競技者のレースナンバーが千切れていた。審判員は、これにストップをかけ、修正を求めた。修正に数分を要し、結果として上位入賞を逃した。
判断例
- 結果的に分かったことは、素材が弱く、切れているものが多かったことだ。これは、腐食布であったが、運営側に改善を求めなければならない。
- 審判としては、事前に素材を確認し、「審判裁定の範囲」を広げる柔軟性が必要かもしれない。
- ルール上、修正のためのロスタイムの再審査はない。ただし、該当競技者の救済を別途、理事会レベルで行うことも必要であろう。「大会趣旨」は、ジュニアの有力選手を選考するものであったはずである。
競技者
- 例え弱いものであっても、切れないように競技する基本姿勢は求められる。
- コースに対する抗議が24時間前迄に認められているように、レースナンバーを受け取ってから、弱いと感じたら、改善のために抗議する権利がある。
- 改善を求められた主催者は、審判団と協議し、「多少の切れは柔軟に対応」するとの見解をレース前に出したかもしれない。
第13条(ウェア・レースナンバー・競技用具・備品)
- (競技中のレースナンバー明示)
- 競技中、レースナンバーは、つねに全面が見えるよう注意する。
- 全面あるいは一部が見えない状況で競技することはペナルティーの対象とする。
<技術ポイント>トランジションエリアからスタートする前、そして、総合フィニッシュ手前から、レースナンバーをよくを整えること。
補足説明
- 競技中の認識番号そしてスポンサーが見えないということで、「ペナルティ度合いは高い」といえる。しかし、これが厳密に適用されていると、相当数の選手が失格となっているだろう。
- 現実には、ルール条文が示すとおりに適用されていない。競技者の意志に係わらず、乱れてしまう「どうしようもない問題」を内在している。
- トランジションで直すことを強く奨励、ピンを渡すなども必要だろう。
- さらにマーシャルが競技者に警告を出し、ストップさせて直させるのが現状、最も確実な対処方法である。
状況例
- バイクボトルの不当投棄を行ったとして競技者のレースナンバー「81番」が、審判長に報告された。ロングディスタンスの大会のためマーシャル報告は、深夜となり競技者に直接確認することが出来ない状況である。そのため、後日、審判長報告で「警告として記録に明記」した。しかし、当事者は、人違いであることを主張した。
判断例
- 過去の事例として、「レースナンバーの誤認」は、マーシャルの起こすミスジャッジで最も頻度の高いものである。このよりどころとなる“証拠”は、競技者のウェアーや自転車の色・特徴などであろう。
- しかし、現実には、レースナンバーを読み取ろうとしているマーシャルにとって難しいのは、バイク競技であれば40キロ前後で疾走している最中であることだ。
- さらには、人間の機能は2つのことを同時に判断することが出来づらいということである。番号を読み取り、そして記憶しようとする、このプロセスは人間の機能を誤動作させることがありえると考えなければいけない。
- またトライアスロンのレースナンバーがヨレヨレになりやすく181を81と読み違えることもあり得ることだ。ボディ・マーキングにしてもレース後半には薄れてしまう。
- これらを補足するには、写真を取るなどがある。しかし、投棄した瞬間を撮ることは不可能に近く、複数の競技者が周辺にいた場合の誤動作も考慮しなければならない。
- バイクボトルに番号を入れるなどは初期的には効果的だが、エードステーションで新たなものを受け取ったあとは、判別できない。
- 最も明快な方法は、警告の手段としてストップアンドゴー・ルールを適用して現場で注意することであろう。該当競技者が、他でも注意を受けていたら、ペナルティは重くなってくる。
- 同様のケースは、トランジションエリアで不正乗車をした競技者にもミスジャッジがあった。至近距離で見ていたマーシャルが読み違えたのである。このケースが人違いであると判明したのは、マーシャルがユニフォームの色を確認していたことである。本人を呼び出した結果、色違いであり、結果、人違いとの結論に至った。競技者には、「申し訳ないことを詫びた」。
- ここでも分かることは、色を判別できたのに番号は無理であったことである。人間の判別機能が複数には働かないことを示している。
- このようなケースでの最良の対応は、やはりその場でストップアンドゴー・ルールを適用し、確認そして注意を促すことだろう。
第13条(ウェア・レースナンバー・競技用具・備品)
- (レースナンバー類の変造禁止)
- レースナンバー類の変造(切って小さくする、穴をあける)は禁止する。
- 折り曲げるなども禁止する。ただし、ウェアに取り付けるために、特別に必要と認められた場合は許可する。
補足説明
- 暑さ対策のために、ウェアの機能性が高まるり、サイズが小さくなった。そのため、従来のレースナンバーの取り付けが難しくなる。競技者は、これをウェアに合わせて余白と思われる部分を切り取ったり細工をしようとする。禁止である。
- しかし、レースナンバー自体の形状や素材も改善していかなければトライアスロンの新時代は迎えられない。
- 上記2)については、レースナンバーの素材が悪く、どうしようもない場合、審判長が特別に認めて折り曲げを許可するという例である。
状況例
- 真夏の大会で、レースナンバーに穴を空けていた。ナンバーや表示類は避けてあった。
判断例
- 「レースナンバーの意義を説明」教育的指導に加え、注意を与える。なお、選手権レベルでは、警告が適当であろう。また、状況によっては、失格も検討される。
- ルールの順守については、「一事が万事」という例えどおり、状況が悪く「たまたまルール違反」をしてしまったケースと、ルールを知る意志を持たずに「ルール違反」をする二つの場合がある。
- レースナンバーに細工をすることは、一度、ルールブックを読んでいれば必ず、意識せざるをえないものである。
- レースナンバーの余白部分に穴をあけたことは、「違反度」としては低いだろうが、「競技者規範」の精神からすれば、不適切な度合いは著しい。
- 仮に、注意のみの裁定とするにしても「ルールブックを読み直す」ことを条件とするなどの教育的指導を行うものだろう。
第13条(ウェア・レースナンバー・競技用具・備品)
- (禁止付帯備品)
- 危険を生じやすい(思われる)装飾品、備品類(ガラス製備品、ヘッドフォン)を身に付けてはいけない。
- 通信機器(無線器、携帯電話、ナビゲーター機器)の使用を禁止する。
補足説明
- 「危険と思われる/生じやすい装飾品」とは限定が難しい。最近では、陸上選手や野球選手が重量感のあるネックレスを身に付けている。スポーツにふさわしいものかどうかの判断も加味される。推奨もできないが、強制的に外せとも言いずらい。
- ピアスのイアリングなどは、転倒の際にピン部分が安全とは言いがたい。しかし、ワンポイントで女性の美しさを引き立てるものとも解釈できる。
- ガラス製備品には、眼鏡も含まれるかもしれない。スポーツの場では、プラスティック製の眼鏡が推奨される。これらのことは競技者自身の判断に委ねる部分だろう。
- マーシャルは、「より高度な安全のため」できれば使用をしないほうが良いと、アドバイスをすることになるだろう。
状況例
- 禁止品目であることは分かっていたが、大会スポンサーでもあり100グラムもない小型携帯電話が出たので、携帯バッグに忍ばせバイクコース途中の景観の素晴らしい高台から小休止の合間に友人に「今、頑張っているヨ」と電話で伝えた。
判断例
- 違反行為である。マーシャルは、このような場面に遭遇したら注意を与える。状況によっては一時預かり、レース後に返却するなどの措置を講ずる。
- 一方で、ロングディスタンスのゆったりとエンジョイする一般選手の場合、「走行中には絶対に使用しない」という特別ルールで認めたら、より広いトライアスロンの楽しみ方が発見できるかもしれない。「普及のためのルール」として検討しても良い時代となったのではないだろうか。
- さらに考えられることは、例えば100キロを越えるバイクコースの途中で緊急事態が発生している場合、競技者が大会本部に連絡することもできる。モニターマーシャルに携帯電話を持たせる案などはどうだろうか。
- 現行のルールは、それ以前の経験値そして背景から制定されるものである。例えば、ウェーブスタートも計測機器が不十分であった時代には、実施できなかった。そして、今日低価格で高性能なパソコンの普及で容易になった。「時代を読み取る感覚」がマーシャルにも求められる。
第13条(ウェア・レースナンバー・競技用具・備品)
- (使用限定備品)
- マッサージ用スプレー類は、他競技者に影響を与えない範囲での使用に限定する。
補足説明
- バイク走行中に、刺激の強いスプレーを使用すれば後続の競技者に影響を与える。
- 現行では、バイク競技中の使用も他競技者に影響を与えなければ」良いとされる。しかし、これにより勝敗が決するようなことがあれば制限は厳しくなるだろう。
状況例
- トランジションで、風下にいたためスプレーの刺激で目が痛くなった。次のランに急いでいたため確認のしようがない。だれが使用したのかは分からなかった。マーシャルに報告したが、特定のしようがない。
判断例
- マーシャルは、周辺をチェックしスプレー類を発見したら、該当選手に注意を与える。
- バイク中のスプレー使用は、迷惑・危険行為として注意されるだろう。
第13条(ウェア・レースナンバー・競技用具・備品)
- (機材用具の変造禁止)
- 指定の検査を受けた機材・用具を変更、改造、交換して使用してはいけない。
補足説明
- 市販されている機材・用具類は、各工業規格に適合したものである。最近は、PL法が厳しく、製品に対するメーカーの対応は優れたものといえる。これらの適合製品に、改造を加えることは、PL法が保証する製造物の欠陥による保証を受けられなくする恐れがある。改造の禁止は、法的にも適合するものである。
状況例
- バイク検査には、練習用ホイールで検査を受けた。本番用ホイールは、前日には使いたくなかった。検査は、問題なく通過し、当日は新品の本戦用を使用して上位に食い込んだ。このルールは、後から気がついたが自己申告をすべきか悩んでいる。
判断例
- 自己申告の意識は良い(98年から奨励事項とする予定)。
- 発見されれば注意を受けるだろう。しかし、検査シールなどがなければ立証のしようがない。
- 「ペナルティ対象の自己申告」は奨励される。また、これにより、審判・検査体制が向上するだろう。さらに、本件で自己申告しても、使用したホイールが適正であれば、現状のJTU審判方針からは、一般的にも失格とはならないだろう。
- 最適な対応は、現場での抜き打ち検査である。
第13条(ウェア・レースナンバー・競技用具・備品)
- (整備義務) <追加>
- 機材用具の整備は競技者自身の責任で行う。
<備考>前項の「競技用具および備品は、常に整備しておくこと」を強調するため独立した項目とする。
補足説明
- 自動車整備振興会では、「車検の簡素化に伴い、点検整備は、自己管理責任となりました」「部品の寿命をユーザー車検では教えてくれません」という宣伝を行っている。
これは、自動車の車検は簡素化され、自分でメンテナンスを行うべきだが、細部の点検は無理なので整備工場に頼んだほうが良いというものである。複雑化するトライアスロン用具機材のマーシャル点検は限界が来ているともいえ、トライアスロンの車検にも当てはまる考え方ではないか。
状況例
- スタート直後、トランジションでチェーンが外れてしまった。そのため、専属のメカニックを呼んで修理してもらった。係員には、理由を説明し了解を取った。
判断例
- 注意で済ませるのがほとんどのケースだろう。しかし、選手権などでは失格もありえる
- 審判上、大事なことは、このメカニックにも注意を与えることである。コース上で修理をアシストしたサポーターに注意を与えるのと同義である。
- 「係員」が了解した件については、全体のスタッフの勉強が必要であり、来期に向けた全体の反省とするものだろう。
第13条(ウェア・レースナンバー・競技用具・備品)
- (新技術)
- 革新技術を有した競技用具・備品類は、競技団体の事前承認を受けなければならない。
- 大会の会場では、審判長の承認を受ける。
補足説明
- トライアスロンのユニークさは、これまで個々の競技では許可されていなかったハイテク用具が大胆に取り入れられたことである。さらに、トライアスロンの世界で自由に使用されたことがフィールドテストとなった。効果的と判断され、他に波及したものも少なくない。
- 80年代初頭から国際競技団体(IF: International Federation) があったら、トライアスロンはもっと保守的なもので止まっていたかもしれない。しかし、ITUがIOCのメンバーとなった今、正当な統制は必要である。
状況例
- 「最近、欧米でも盛んに使われている、トッププロも使っている..」と店員にいわれエアロボトルを購入、ハンドルバーに装着してもらった。
- 大会前日のバイク検査では、なにもいわれなかったが、大会当日のスイムスタート30分前に、呼び出され外すようにとの指示を受けた。
判断例
- 本件は、実に多くの要素を含む。研究課題の宝庫ともいえる。
- 販売店が、明らかにトライアスロン向けの「革新用具」を何の注釈もなく販売したことが問題となる。所轄競技団体あるいはJTUに事前確認をするべきだった。
- さらに、これらエアロボトルの情報を早めに入手し、これを関係者に告知すべきであった。
- バイク検査で見逃されたということも、審判長そしてマーシャル間の連携の不備が指摘される。前日には付けずに、検査以後に付けた可能性もあるが、これはなかったことが確認された。
- バイク検査の範囲の問題は別途研究が必要である。
- スタート直前であっても「不正」と判断されれば、この指示に従わなければならないのが規則である。しかし、ここで重大な問題は、「ルール条文には記されていない、メカニックも含めたマーシャル全体の管理体制」である。ここに不備があったにもかかわらず、「競技者に一方的にルールを適用」したという構図となっている。「競技者のために快適なレースを助ける」というマーシャル本来の姿勢そして意識が見えてこない。
- 注意を受けた競技者は、狼狽しながらも、知り合いのメカニシャンに頼み、これを外すことが出来た。マーシャルは、「外すことを」優先事項とし、「他人の助力」を容認した。適切な判断といえる。
- しかし、考慮しなければいけないことは、ここで「マーシャルに都合良く、柔軟な解釈をしておきながら、競技者には厳しかった」ことである。
- エアロボトルが禁止された根拠は、「安全面よりも空気抵抗軽減」であった。その根拠は明確にあったのか。判断基準が希薄である。
- 現在、エアロボトルは、水を内包する以外のフィン形状のものでなければこれを許可する方針となっている。空気抵抗軽減効果がないとはいえないが、炎天下で水分を多量に摂取できる当ボトルは今後の推奨品目にもなりえるだろう。また、一般のバイクボトルと違って、姿勢を崩さずに水分を取れるメリットがある。
- 本件は、結局、該当競技者が、地元出身であったため、所轄競技団体から「不適切を詫びた」ことにより決着が付いた。

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