JTU競技規則<改定案と補足説明と事例集>
第3章 共通競技規則 第14条(危険・不当行為の禁止と優先コース)
第14条(危険・不当行為の禁止と優先コース)
- (競技妨害の禁止)
- 他競技者への危険・妨害行為を禁止する。
補足説明
- スイムであれば、肘での突き上げや、後続競技者への足での蹴りなど、審判監視がきわめて難しい状況が多い。また、申告を受けてもこれを証明する手だては少ない。
- バイクにおいても、同様である。
状況例
- 国際大会(横30mからのフローティングスタート。陸からスタートラインへは20m程度)で、スイムの第一コーナーでA選手が、となりのB選手の背中を殴って沈めるような状態があった。ボート上から監視していたマーシャルの「失格対象」との報告を受け、審判長は「単なる危険行為ではなく、意図的な危険行為」として失格判定を決定した。
- レース後に、危険行為との失格宣告を受けたA選手は、ルールに従い、審判長の裁定にまずは文書で抗議したが受け入れられず、上訴委員会 (Jury) に上訴した。
- 上訴委員会が開催する聴聞会での説明は、「一生懸命曲がろうとしただけで、殴ろうなどとは思ってもいない。このようなコース設定はやめてほしい」。また、バトルのなかでみんながぶつかりあう状況であった。
判断例
- 「適正競技者数の検証」:
競技者同志が自然にぶつかりあうような数の選手を同時にスタートさせていたかどうかでは、規定による100名であり事前承認事項であり、不適とはいえない。
- 「コース設定の検証」:
スタート後のターン部分までの距離は,参加競技者数に対し十分であったか。これも規定どおりであった。
- 「競技環境の検証」:
- 横30mからのフローティングスタート。第1コーナーへは350m。右へ50m。陸からスタートラインへは20m程度。ITU規定からは若干差異があるが、適正範囲である。周辺環境から、技術代表(Technical Delegate:テクニカル・デリゲート)もこれを認めている。安定度も高く問題はない。しかし、折り返し地点が、前夜からの潮の流れで岸壁よりになっており、20mほどに狭くなっていた。当日の修正があったが潮の流れで押し戻されていた。
- 「レース展開の検証」:
ややばらつきがあったが、スムーズにスタート。年々、世界各国からの選抜代表選手の競技力は接近している。特に、スイムではほとんど一団となってコーナーに突っ込んでいくような状態であった。
- 「マーシャルの正確度の検証」:
コーナー内側に位置したボートから至近距離で監視していたため状況確認は正確と判断される。しかし、第一コーナーでは50名以上が同時にターンしているため、かなりのぶつかりがあったと想定される。また、終了後の競技者からも、ぶつかりあいが多く大変であったことが何件も報告されている。
- 以上の検証があり、失格裁定は厳しすぎるとの判断が成された。これにより上訴は受け入れられ、審判長の判定は覆された。供託金(預託金)はルールに従い返還された。
- この経過のなかで、スイム・マーシャルは、審判長に「悪質であり絶対に失格である」ことを主張した。審判長は、技術代表と相談し、「明確な違反」として失格裁定に同意している。
- なお、「他競技者にも危険行為はあったに違いない」とすることに関しては、「競技者を確定できないため対象としない」とするのが欧米流の判定方法である。「例えば、再現できないスピード違反などは、現行犯以外は立証のしよううがない」との考え方と同様である。
第14条(危険・不当行為の禁止と優先コース)
- (優先コース進路の確保)
- 「優先コース進路」は、競技遂行に従い想定されるコース進路である。
- 競技者はすみやかに競技者どうしの優先コース進路を判断し、競技のスムーズな流れを確保しなければならない。
補足説明
- ITUが規定する right of the way が優先コース進路に当たる。
- 直線コースであれば、キープレフトを守った延長線上が「優先コース進路」である。また、カーブ地点では、完全規制のオープンコースであれが、インからアウトあるいはアウトからインへと自然に曲がる想定コースが優先コース進路となる。
- しかし、これが完全規制でない場合は、キープレフトの原則が優先させるため、カーブでは、十分減速してインからインにコースを取らねば、キープレフトを守れない。
- なお、完全規制コースで実施されるドラフティング・レース(ドラフティング許可)以外では、集団でカーブ付近を通過するには、事前に縦一列になってカーブに進入しないとルールに則した走行はできない。
状況例
- 左カーブでキープレフトを守りながら減速して左折しようとしていたら、後続の競技者が中央付近にふくれて急激に右側後方から、前方に入り込んできて追い越された。「危険きわまりない。すんでのところで接触を逃れた」。審判長に口頭で伝えた。
判断例
- 前競技者は、キープレフトそして優先コースを守っている。後続から抜いた競技者は、これを侵害し第1の違反が適用される。さらに危険走行と判断され第2の違反が追加される。
- しかしながら、マーシャル確認がなく、競技者からの抗議のみでは違反を確定することはできない。
- 審判長の業務としては、対象の競技者から事情聴取を行い「教育的指導」を行うに止まるだろう。
- 一方、もし、状況例の場合、バイクマーシャルが現場にいたらどうであろうか。
- 現行ルールでは、ストップアンドゴー・ルールは、“原則として”ドラフティング違反に対して適用されるとしているが、これ以外でもマーシャルの裁定で適法できると解釈可能である(当規定は、98年にはすべてに適用できるよう規定を明確化する予定)。そのため、後続からの競技者をSGルールに従い停止させ、ルールどおりの適用を行い、注意を与えることができるだろう。
- なお、状況によりこれができなかった場合でもマーシャルが確認していれば、失格あるいは最低でも厳重注意を与えることが出来るだろう。
第14条(危険・不当行為の禁止と優先コース)
- (エイドステーション進路変更と減速義務)
- エイドステーションで飲食物補給をする場合、事前に進路変更を行い、補給品を受け取れるよう減速する。
- エイドステーションでの補給は、競技者自身が注意して適切に行う。
<技術アドバイス>エイドステーションでは、スタッフは競技者と併走して補給者を手渡さない。静止して手渡すことが基本である。
補足説明
- 運営規則により、エイドステーションのスタッフは、競技者と併走しない。併走すれば競技者は減速せずに受取やすい。しかし、この方法ではスタッフがうまく手渡そうと思って前に出てしまいがちである。となりのスタッフにぶつかることもある。静止して回転するように手渡す方法を運営規則で規定している。
状況例
- 競技者は、減速しドリンクを受け取ろうとする。後続の競技者は減速したが、十分でない。その結果、追突し、脱臼の負い目にあってレースを棄権した。
判断例
- エードの配置の再検討。
- ともに減速しているのでルール上は適合している。しかし、後続の競技者は、前方確認そして状況判断を誤っている。
- 裁定は、「お互いに気をつけよう」ということになるだろうか。
第14条(危険・不当行為の禁止と優先コース)
- (不当な投棄の禁止)
- コース上あるいは周辺に物を投げ捨てることを禁止する。
- ボトルやスポンジなどは指定箇所、あるいはコース路肩付近にきちんと捨てる。
補足説明
- コース上とのみ規定されているが、実際はコース外、周辺にもむやみに物を投げ捨てては行けない。夏の大会で青々とした田んぼに捨てられたバイクボトルが、秋の刈り入れの時期にゴロゴロと出てくる。...「トライアスリートはマナーが悪い」との怒りの声が出てくれば、大会の存続さえ危ぶまれる。
- 「コースは神聖はものであり、これを汚さない」精神が大事である。審判員が促す。
- 投機物だけで失格をだすことはできない。大会の機運で意識を高める。ボトルに番号シールを貼るなども一案。クッション性の高いボトル開発など、技術がスポーツの質を高める時代だ。
状況例
- ボトルのコース上投棄を発見した。遠方で競技者を確認できない。審判員が拾う間もなく、後続者が転倒し骨折した。
判断例
- 不当投棄物件から、所有者を捜し当てることは困難である。(将来的には、簡易な科学判定で即刻割り出せるようになるかもしれないが)
- 運営としては、大会全体のキャンペーンとして、これを防止する機運を高める。エードステーションでのバイクボトルには無理だが、各自のバイクボトルにレースナンバー・シールを貼るなどは一案。
- さらに、技術的には「クッション性の高いボトルを開発」すること。荒唐無稽と思われがちなことでも、「理想は何か」を絶えず追求する気持ちがトライアスロンを「21世紀のスポーツ」に格上げする要因である。
- バイクマーシャルは、現場にいたらストップアンドゴー・ルールを適用する。そこで「事情を聞く。注意を与える。ナンバーを控える。審判長に報告する」ことをスムーズに出来るようにする。
- 転倒した競技者は、災難としかいいようがないようにみえる。厳しい見方であるが「前方注意義務(98年から明確にルール規定予定)」を怠っていたともいえる。
- 以上のケースを過失・責任度合で換算すると;
不当投棄競技者 100%の罰則責任
前方注意義務 70%の本人責任
主催管理不足 10%の主催責任
これを相殺すると、100−(70+10)=20%であり、転倒した本人がもう少し注意していれば、転倒しなかった。やはり、トライアスロンのように広域の一般道路を使用する競技では、前方を注意して自己管理のもとに競技しなければ大会が成立しないことの好例である。
- なお、投棄者がケガを知って「もしかしたら自分かもしれない、コース脇に捨てたつもりだったが、コース中央に転がったようにも思えた、しかし、スピードに乗っていたしそのまま行ってしまった。自分のボトルでケガした方には申し訳ない」というような、自己申告が大会本部になされたとしたら、「落とし主の100%の過失責任は、2−3割は減らされる」かもしれない。
- そうすると、双方の責任相殺は、+−0になるだろう。そこで、「早くケガを直してまた頑張ろう。次からはもっとコース路面にも気をつけよう」ということになるだろう。また、トライアスロンを運営する側からしたら、そうなってほしいと願うものだ。さらに、来年は、コース上の管理を強化して、転倒を防ごうという気持ちが高まるに違いない。
- 以上は、「競技者の責任はつねに、周辺状況とリンク」し、必ずしも「競技者が負うべき責任が100%問われるものではない」ことを示している。
これらを考え、ルール違反は、つねに情状酌量ポイントが差し引かれなければ正確で競技者に納得のゆく裁定は出来ないということでもある。
- 完全管理が難しく不安定な要因を多く内在する「トライアスロンならではの裁定の妙味」と考えたい。

Japan Triathlon Union
Copyright(C)1998 Japan Triathlon Union (JTU) All Rights Reserved.