JTU競技規則<改定案と補足説明と事例集>
第4章 水泳(スイム)競技規則 第18条(禁止行為)
第18条(禁止行為)
- (不正スタート)
不正スタート(フォールス・スタート)、スタートエリア(コースライン)外からのスタート、危険と見なされるスタートを禁止する。
補足説明
- フライング・スタートは、自転車競技の一スタート方式を意味するため、今後は、不正スタート(フォールス・スタート)とする。
- スタートが巧く行くか否かは、すべてスタート地点の設定と方式のいかんによると断言できる。不正スタートを防止するには、次の要点に留意する。
- “スタンディング・スタート”では、「競技者を走らせない」ことに尽きる。スタート位置は、すぐ泳ぎ出せるのであれば水辺からである。浅瀬が続く場合は、股下あるいは腰の辺り(水深約1m)まで水につかった地点にスタートラインを設定する。
水中にスタート位置を設定することが困難な場合でも、走らせる距離は数メートルであろう。また、何十メートルと走らせなければならないような場所では、選手権レベルの大会を行うべきではない。
- “フローティング・スタート”を行わなければならない場合は、全員がスタートラインに付いてから、いかに“瞬時”にスタートさせられるかがポイントである。瞬時とは、秒単位であり、分単位ではない。これを実現するには、定刻スタートではなく、陸上競技のように、スターターがOKと判断した直後のことである。最新のコンピューター計測では、定刻ではなくても対応が可能となっている。
- ワールドカップでは、“ダイブ・スタート Dive Start (飛び込みスタート:ジャンプ・スタートではない)”が実施される。最大100名のスタートでは、1名60センチと換算し横幅30メートルの安定した場所が必要である。ランキングとスイムの格別速い競技者がシードされ前列に並ぶ。後列は、ワンテンポ遅れてのスタートとなる。
- ワールドカップやスーパースプリントの場合、特に、「整列直後のスタート」が、列を乱さない最適の方法となっている。
- 1分前からのカウントダウンは行わない。BGMなども止め静粛を願う。
- スタートバナーの方法も研究したい。確実で見栄えのよいものが望まれる。
状況例1
- 午前9時スタートの予定で緊迫した瞬間が近づいていた。静寂となった残り数秒になったとき「パン」という音が炸裂した。スタート直後に打ち上げる予定であった花火が手違いで上がってしまった。数名の競技者がスタートすると、一斉にスタートしてしまった。すでに戻しようのない状況だ。
状況例2
- アジアの大会で、スタート前の市長の祝辞が長く続いていた。シビレをきらした数名が不正スタートをすると次々にスタートを切る。祝辞は続いている。終わった頃には、半数以上が50メートル先を泳いでいた。そのまま正式スタートとの合図が鳴った。
判断例
- 事前の運営準備の不備が主たる原因である。さらに、スターターが地元VIPである場合、このような状況に対処しずらい。基本は、審判長あるいは熟練した審判員がこれを行うものであろう。どうしてもVIPが行う必然性があるのであれば、審判団がこれを完全に補佐しなければならない。そしてタイマーは別の係員を配置すべきである。
- 補佐の方法とは、VIPの横に控える審判員もスタートピストルを持ち、急場に備えることである。
- 不正スタートをを抑えるには、カヌー、ジェットスキー、エンジン付ゴムボートの配置がないと難しい。
第18条(禁止行為)
- (コース離脱)
ブイなどによって示されたコースを泳ぐものとし、ターンブイをショートカットすることを禁止する。
(削除)コース内側を泳ぐあるいはショートカットをすることを禁止する。
補足説明
- スイムコースが明快に設定されていれば、競技者が意図的にショートカットやコース離脱をすることはほとんど起こらない。
- コースブイが点々と置かれた状態では、「コース内側を泳ぐ」ことの判定はむずかしい
- 往復コースであれば、コース間を30mは取ることがITUで規定されている。JTUもこれに準じているが、欧米では一般に綿密にコースブイを設置しないことが多く、この規定が制定されている。
- 綿密で明快なコースロープの敷設と監視体制があれば、1本のコースロープでも可とする場合もあるだろう。もちろん、コースを間隔を空けて設置するのが理想である。
- 重要留意点:
適正人数と適正ウェーブスタートとスタート間隔、リードボート、ターンへの導入ブイ、監視態勢(波を立てず小回りが効くボート類)の設置。
状況例
- 折り返し地点にブイが設置してあったが、荒波で良く見えない。監視状況も悪い。混乱に乗じてショートカットした競技者もいたが特定できない。
判断例
- バイクでのドラフティング制御と同様、スイムでの管理そして審判は難しい。この典型的な事例である。
- マーシャルやスタッフが違反を発見しても特定しずらいときは、ペナルティーの与えようがない。ポイントは、事前防止のためのコースブイの設営と監視がすべてである。
第18条(禁止行為)
- (ブロッキング・ヒッティング禁止)
スタート時の肘・脚でのブロッキング、スタート直後の蹴足によるヒッティング競泳中における他競技者へのキッキングなどの危険行為を禁止する。
補足説明
- スタート前の興奮した状態では、無意識にとなりの競技者と牽制しあいブロックしたりすることがある。また、水中で故意ばかりでなく、意図的に後者の顔面を蹴り挙げることができる。これを防止するには、適正人数でのスタートが肝要である。また水中監視の方法も研究したいところだ。
状況例
- ワールドカップで周回地点で上陸し、再入水するコースで、日本選手が外国選手に肘で鼻筋を打たれ、鼻血が出るということがあった。レース後に広まった話は、飛び込みの際のことであり、飛び込みは危険であることが喧伝された。しかし、VTRで確認すると、そのような形跡はない。
- 本人は、夢中で記憶があいまい(選手の競技中の状況の典型。審判の重要な留意点)であるが、飛び込みの後ではない、途中で外国選手と接触した、ゴーグル着用と水中でのこと、相手は特定できない。
判断例
- 該当大会のコース設定は、96年度ITUワールドカップ規定で3周を実施したときのものである。100名未満の適正エリート選手、男女の完全分離など完全なものであった。水面も十分広い。それでも世界の強豪が集まるレースは差がつかずにぶつかりあいが起こる。競技者のテンションも高い。一般であったら楽々と泳げると容易に想像できる。
- 結局、「激しいバトルは嫌だ、我々はスポーツをするのであった喧嘩をしているのでははない」という要望が、考慮され、1500mで2周回を推奨するようになった。競技者と競技団体が双方の立場を尊重した解決さくである。
- 審判長としては、大会講評で、参加選手全員に注意を与え、理解を願うことが重要であり、同時に主催側には改善を願うということになる。

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