JTU競技規則<改定案と補足説明と事例集>
第4章 水泳(スイム)競技規則 第20条(スイム用具類)
第20条(スイム用具類)
- (スイムキャップ着用義務) <表現修正>
- 大会スイムキャップを着用し指定備品(計測機器、他)を装着し競技を行う。
- 紛失の場合は、再発行を求める。また、競技中は、計測地点でレースナンバーをコールし自己申告を行う。
補足説明
- 体に付ける指定備品類での一番の難点は、正確に使用しても激しい動きのなかで外れてしまうことだ。主催者は、耐久性、快適性を追求し制作することである。
- マジックテープでできたタイミングベルトのエッジ部分で足首を切った。男女共用で、すらりと伸びた足首の競技者はすぐ外れてしまう。ウェットスーツの生地を流用しているが厚すぎて幅が広く使用感が悪すぎる。等々、改善の余地が多い必須備品である。
状況例
- 紛失に気がつかず計測地点を通過した、反応せず、係員に呼び止められた。タイムロスは1分以上あった。一生懸命なボランティア・スタッフを無視することもできないが、
やはり悔しい気持ちだ。書面での抗議までは考えなかったが、口頭では抗議した。
判断例
- このような場合を想定して、ローカルルールで、「計測不備によるロスタイムに抗議できない」とすることが多い。計測担当者の意見が重視されて、致し方なくローカルルールとしていることが多い。しかし、競技として考えた場合、余りに「競技者不在」の主催者に都合が良すぎるルールである。それでも、過去数年間で計測は飛躍的に進歩した。しかしいぜんとして完全ではない。
- 競技者は、計測地点での重要度をレース前から良くイメージし、紛失の際には無意識のうちに行動できるように訓練してほしいところだ。また、タイミングバンドの有無にかかわらず「ナンバーをコールして通過すれば」呼び止められることはなかったはずだ。クレームを付けたい気持ちも分かるが、計測係の作業内容を理解すればスムーズに順位を上げられたに違いない。
- この抗議は受け入れられないだろう。競技者には、「事前に運営に対して抗議する権利が与えられているのに、これを行わなかった、すなわち、これを受け入れたと理解される」からだ。さらに、ナンバーをコールすれば良かったことも抗議を受け入れない理由である。
- 同時に、主催者は、例えば、「有力選手を選考する目的」の選手権レベルの大会であれば、当然、限定人数であり、計測の反応ミス、物理的に仕方ない紛失に備え、別途の対応をして「スムーズなレース運営」をするべきであったろう。
第20条(スイム用具類)
- (ウェットスーツ着用基準) <一部追加修正>
- 安全のために有効であり、着用を推奨する。
- 競技区分(選手権大会、一般部門)、距離などに応じ着用基準を制定する。詳細は、「着用基準」による。
- 低水温や環境不良が事前に予想される場合は、事前発表(申込み時点)によりウエッスーツの着用を義務付ける。
- 競技環境が不安定な場合は、着用禁止温度以上であっても着用を許可する場合がある。
- 着用の可否の予想は、前日の水温と気象情報などにより発表される。最終決定は、競技スタートの2時間前を基準とする。
補足説明
- ウエットスーツの普及は、トライアスロンの普及をも促進したといえる。しかし、一方で、競技力の向上に伴い、着用時の泳力が接近し、スイムで差がつきづらくなった。これにより、バイクでの過密化を助長し集団化を誘発する原因ともなった。
- 一般部門においてはウエットスーツの着用は、ほとんどの大会で許可あるいは推奨されている。また、ロングディスタンスや低温、あるいは不安定なスイムコンディションが予想される場合は、あらかじめ「ウエットスーツの着用が義務付けられる」ことが一般的である。
- これらのことから、従来は、単に安全のための着用であったが、「人間の運動能力を競い合う」選手権部門などでは、明確に能力を見極める意味からも、着用が制限されるようになった。
- トライアスロン・ディスタンスの世界選手権、ワールドカップなどでは、当初の着用基準は、摂氏22度であったが、後に21度そして97年には20度にまで制限が下がってきた。今後、さらに1−2度の低下があるかもしれない。
- マーシャルが考慮るべきは、「競技者の感じる体感温度」である。水温が低くても晴れ上がって穏やかな天候では、温かめに感じるものである。逆の意味で、水温が適温以上であっても、風の強い曇った天気では実際より冷たく感じるものである。
状況例
- 地区の予選会で、ウェットスーツ着用義務のローカルルールが適用されていた。大会案内にも明記されており、競技説明会でもこのことが説明された。競技者Aは、着用時にウエットスーツが破れてしまい、水温も21度(エリート/プロ部門)以上あり、水泳にも自信があったので着用なしで出場し、上位入賞を果たした。
- 予選会であったが、一般上位グループと100名ほどの同一スタートであった。また、競技者Aは、係のスタッフ(審判員ではない)に「破れてしまったので着用しなくて良いですか」と尋ねると、「良いのではないしょうか」との返事をもらっていた。
判断例
- ローカルルールが文言どおりに適用されていたら、「失格」であり、スタート前に発見されたら「出場停止」であろう。
- 「係員から了解を取った」としても、「競技者自身がルールを把握する義務」があり、言い訳にはならないだろう。
- 審判側が、「良いと言ったのは係員であって、審判員ではない」と主張することも、適当ではない。競技者からは、すべて主催者側となる。
- 運営面から判断すると、主催者は次のことを行えば問題は防げただろう。
- 「予選会部門」を完全に分ける。
- ウェットスーツ着用基準のJTUルール適用(または、予選会部門は、「推奨」とする)
- 予選会は、「代表選手を選考する」という趣旨であるから、これを考慮した対応が必要である。大会では、ルールどおり失格となった場合でも、別途、管轄団体が別途シードするなどの配慮があっても良いかもしれない。
第20条(スイム用具類)
- (ウェットスーツの形状)
- 上半身と下半身が一体となった体に良く合ったものであること。頭部、両手、両足部分を除く全身を覆うフルタイプまでを許可する。ただし、上半身がない下半身のみの形状は禁止する。
- 頭部を覆うヘッドキャップも許可範囲とする。ただし、手足部分を覆うことはできない。
- 厚さはいかなる状況においても最大5oを限度とする。各部分の厚さは、この範囲以内であれば制限を設けない。
- 表面に推力あるいは浮力を向上させるような加工を施してはいけない。
- 内部に浮遊物あるいは浮遊を促す可能性のあるものを入れてはいけない。
補足説明
- ウエットスーツは、安全のための必要最小限の保温と浮力確保が目的であり、これにより競技力を著しく上げることが目的ではない。そのため、腕の部分の縫い代部分を多く取りフィン形状にするなどは許可されない。
- ウェットスーツの検査は、バイク検査同様、持参願うこともあるが、一般には、トランジションでの抜き打ち検査が行われるものだ。特に、内部に浮遊物を入れるなどは現場でないとチェックできない。
状況例
- 海外選手が、全体には5ミリ以内ながら、胸の部分の三角の部分が厚さが5ミリ以上(計測は5. 7ミリ)のスポンサー提供のウエットスーツを検査に持参した。また、検査時に濡れていたので5ミリ以上あり、乾燥していれば5ミリ以内であることを強調した。さらに、スポンサー提供品であり、航空券の支援を受けていることを説明した。
判断例
- 不可と伝え、代用の着用を願った。
- スポンサーには、別途、該当の競技団体から注意を促すこととした。
- 一般的に正確な計測を要するものは、その誤差を5−10%は認めるものだ。JIS基準では、一般に5%以内と規定される。
- 大会現場の計測では、ウェットスーツの素材の不安定さなどから10%程度を許容範囲とすることが妥当ともいえる。ただし、メーカーへの報告と注意などは別途、必要なことである。
第20条(スイム用具類)
- (使用禁止用具)
- 足ヒレ、パドルなどの推進補助具、同等の効果が得られるもの、ソックス、グラブ、シュノーケル、ガラス製品、浮遊用具の使用を禁止する。
- (使用許可用具)
- ゴーグル、ノウズクリップの使用は許可する。
補足説明
- 使用が禁止される用具類の判断基準は、「競技力を向上させる可能性のあるもの。そして危険を生じる可能性のあるもの」である。
- その他、使用が許可される用具類は、「耳栓」などである。また、腕に止めて緊急時に膨らませることの出来る圧縮型の「救急用浮き」は、市販の規格品であれば特別に浮遊力を増すものとは判断されないだろう。ただし、一度、膨らませて使用した場合は、レースに復帰するこは許されない。
状況例
- 一般大会で、水中メガネで泳いでいる競技者がいた。注意を与えると、「水中メガネもゴーグルの一種と理解していた」と釈明した。
判断例
- マーシャルは、これを事前に発見すべきであった。「スタートラインに付いた競技者を見渡す。スイムキャップの色を確認する。ゴーグルなどにも目配せする。そして、異常にエキサイトした競技者を「落ちついて」など声を掛けて、事前に牽制する」。これらがスイムスタート直前のマーシャルの基本業務である。
- 水中メガネを不可とする主たる理由はガラス製品であることである。そのため、プラスチック製であれば、これを認めてもよいものだ。ただし、本来のゴーグルについて説明し次回からの使用をお願いすることになるだろう。
第20条(スイム用具類)
- (その他の用具類) <追加>
- ワセリン、オイル類、保温クリーム、日焼け止めなどの使用は許可される。ただし、無色透明のものに限定する。また、ボディマーキングを受ける前に使用してはいけない。なお、プールでの使用は施設の規定による。
- ゴーグルの曇り止めは、使用が許可される。
- 特殊な効果を有する物は、事前に審判長の許可を得る必要がある。
補足説明
- 水泳という単純と思える競技においても、これを補足するための特殊な効力を発揮する物の開発は著しいものがある。保温など安全面での効果があるものから、体に塗って、特殊効果を得るものなどまちまちである。判断は難しいが、競技者はこれらユニークな物質の使用については、事前の許可を得ることを心得るべきである。
状況例
- ゴーグルの曇りどめが目に入り、痛くてリタイアした。大会目玉の招待選手のスイムからのリタイアは、主催者を落胆させるに十分であった。
判断例
- 競技者の安全の見地から止むを得ないことである。
- 主催者あるいはマーシャルは、競技者から使用したくもりどめのメーカーを確認し、競技団体に報告すべきであった。
- 競技団体は、このような場合、メーカーに注意することが、競技者を守る一般的な方法である。

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