JTU競技規則<改定案と補足説明と事例集>
第6章 自転車(バイク)競技規則 第29条(集団走行と伴走の禁止)
第29条(集団走行と伴走の禁止)
- (定義) <表現修正>
- 複数の競技者がドラフティング状態で走行する「集団走行」を禁止する。
- 2名以上の競技者がドラフティング状態のまま並んで走行する「伴走」を禁止する
補足説明
- ストップアンドゴー・ルールは、もともと広い道路があることを前提に制定されたものである。そのため、狭く規制の十分でないコースでこれを適用すると「ルール適用以前に危険を招く深刻な事態」が起こりかねない。
- 例えば、2車線をフルに一方行に使える場合では、ルールを順守しながら集団あるいは伴走ができるが、日本はもとより海外でもこのように広いコースはほとんどない。
- そのため、複数の競技者が遠方からでもまとまって見える場合は、まずは注意を与える準備をする。さらに接近して、状況を確認する。
状況例
- ハイレベルな競技者を集めたドラフティング禁止レースである。コースの2/3は規制されていたが、他は一般車両との併走コースである。一部、急なアップダウンがある。
- 5名ぐらいの3グループが、じょじょに差を詰めはじめていた。各グループにマーシャルが付いている。各グループはドラフティングぎりぎりの状況ながら、ドラフトゾーン内では《追い抜く動き》を見せている。これをマーシャルは適正範囲と判断し、監視を続行する。
- 後続は、スイムをやや苦手とするもののバイクは強い。ついに、3集団が一体となった。身動きが取れない。大会は片側規制で、対面からは一般車両が走ってくる。マーシャルは横に出て注意しずらい状況だ。
- この現場にいたバイクマーシャルは、失格など厳しく対処すべきことを主張した。他のマーシャルは、車両との併走部分ではストップアンドゴー・ルールが適用しずらかったため、タイムペナルティーを導入していればよかったことを感じていた。
- バイクの競技タイムからは、この集団にいた競技者はすべてほぼ同一ラップであることが分かっており、これを証拠にドラフティング走行をしていたことを主張した。
判断例
- このような例は、競技者の力が接近する今日、一般大会でも、頻繁に起こりえる。
- 記録結果を見て、一律に罰則を与えようとすることは、マーシャルの原点に背くものだろう。
- バイクマーシャルは、しぶとく注意を与えながら集団を散らすことが必要である。ストップアンドゴー・ルールも、前後の状況から、最後尾の競技者から適用できたかもしれない。しかし、マーシャルは、競技者にケガをさせてしまいはしないかという恐怖感をつねに抱いている。一見臆病と思いがちであるが、マーシャルといえども一般の感覚を持った人間であり正しい感覚である。
- 広く完全規制されたコースを求め続けるものであるが、これは青い鳥を探すようなものか。トップ選手が多く集まるレースのみならず、ドラフティングには抜本的な対策が必要なときとなっている。
第29条(集団走行と伴走の禁止)
- (集団走行の禁止と解除)
- ドラフトゾーンが接触している「集団走行」あるいは「集団走行と見なされる走行」を禁止する。(98年以降、同一内容を整理)
- 競技者は、前条の規定にもとづきバイク車間距離を十分に確保し、集団走行を事前にさけなければならない。またこのような状態はすみやかに解除する。
<技術アドバイス>トライアスロンのバイク走行の基本は、一般車両が高速道路を走ると同様である。
進行方向の左車線は一般、右側は追越し車線である。前方の車両を追い越そうとした場合、後方を注意し、安全が確認できれば変更の3秒前にウインカーを出し、車線変更を行う。
そして、十分に追い越した状態で、左折の合図を送り、キープレフト状態に戻る。さらに、前方が混雑あるいは渋滞していればスローダウンする。集団を速やかに追い越せれば、ルールにより追い越す。できなければジックリと追い越すタイミングを待たねばならない。
補足説明
- このルールの要点は、マーシャルがどの位置から見ているかである。複数の競技者を、後方から見れば、視覚的に競技者が連なって集団に見える。これは、センターラインに10mおきに置かれたコーンを縦に見れば、ほぼくっついて連なってみえることと同じである。真横から見れば、間隔はよく分かる。
ドラフトゾーンが重なっていなければドラフティング違反ではない。しかし、誤差が生じやすい後方からでも集団化している、あるいは集団化しそうであると判断されれば、いずれ「違反状況」となる確立が高い。
早めに、マーシャルの存在をアピールするなどにより、「競技者を牽制」し、注意を与える状況である。
- このことは、マーシャルが、競技者間の距離を正しく見極めるには、真横あるいは少なくともギリギリの斜め後方に出ないと確認できないということになる。
- バイクでは、競技者が横2. 5mを開けるルールがある。これは、例えば、競技者が縁石からキープレフトで1mそしてマーシャルの2.5mを合わせると3.5m以上離れることになる。一般道路の幅が3〜4m前後でありマーシャルはほぼセンターライン付近を30秒(15秒)以上走行しなければ集団ドラフティングを正確にチェックできないことになる。
- 片側規制の場合、とても危険である。審判業務のために、「危険が伴う場合は、安全を優先」する。
状況例
- コースが狭く、マーシャルは後方のみから集団の監視を続けた。10−15秒経過しさらに確認のため10−15秒の追加確認を行った。それでも動かないので、最後尾の競技者にSGルールを適用した。
判断例
- 注意警告をひんぱんに出し、バラケさせることが第一であるが、注意警告のコールなしでも、この状況であればストップアンドゴー・ルールの適用は正当である。
- 時として、注意・警告のコールなしでズバリSGルールを適用することも広義の“教育的指導”として効果的かもしれない。
第29条(集団走行と伴走の禁止)
- (伴走の禁止)
- ドラフトゾーンが接触している「伴走」あるいは「伴走と見なされる走行」を禁止する。
- 競技者は前条規定にもとづきバイク車間距離を十分に確保し、集団走行を事前に回避しなければならない。また、このような状態を速やかに解除する。
補足説明
- 伴走は、第一に「キープレフトの観点」から違反走行となる。
- 第二に、「風向き」によっては大きなドラフティング効果が生まれ、違反となる。
- 第三の違反は、後続競技者の追い抜きを邪魔する「進路妨害」となる。
- 第四には、伴走でセンター寄りを走り、センターラインを越えやすく交通規則による「違反走行」となる。
- 以上のように、伴走は、二重三重の違反行為として厳しくジャッジされるものだ。
- さらに、伴走により集団走行の原因となりやすくバイク競技における「最も悪質なルール違反」といえる。
- また、練習中でも伴走は最も危険な走行である。道交法でも禁止される。
状況例
- 2名の競技者がドラフトゾーンを十分に保ちながら走行している。前後に競技者はいないが、フラットな直線部分でいつのまにか伴走状態となっている。同一ユニフォームを着ている。知り合いなのか二言三言話をした様子である。
判断例
- 即刻ホイッスルを鳴らし注意する。解除が遅い場合、伴走状態が15〜30秒を超えて継続している場合、レース後、審判長裁定で厳重注意あるいは失格もありえる。
- しかし、このような場合、一般には警告をハッキリと出せば、すぐ解除するだろう。失格はできるだけ出したくない。
第xx条(ドラフティング許可規則) <96年度改定(98年度一部追加修正)>
- (定義)
- JTUが主催・共催し、ドラフティングが公認された大会において、ドラフティング走行が許可される。
- <以降、98年追加案>
JTU加盟団体が開催する大会においても、JTUが特別に認めた大会において、ドラフティング走行が許可される。
- (安全走行義務)
- 競技者は、周辺状況を良く把握し、他競技者の動きを予想しながら十分な注意を払い競技を行う。
- エアロバー(DHバー)の使用は、安全を確保できる範囲内で使用する。後続競技者は、「ブレーキレバーがいつでも手の届く位置をグリップ」する。
<98年追加案>「ITUバイク用具新規定」に準じる。
- (禁止行為)
- 他競技者のバイクや体への接触、さらには接触の可能性の高い走行を禁止する。
- 「幅寄せ、斜行、無理な斜線変更、不必要なブレーキング」を禁止する。
- コーナー地点では、先行競技者が優先される。後続競技者は「先行競技者の走行コース」に進入してはいけない。
- (特別事項/98年度追加案)
- 周回コースでの周回遅れは、コースアウト( DNF: Did Not Finish:失格とは表現しない)とする場合がある。マーシャルの指示に従い、自らが、左端により競技を停止する。
- コースアウトとならない場合には、追い抜いた競技者あるいは集団に影響がない走行を心掛ける。大会規定により、「追い抜かれた競技者の前に出ない、ストップアンドゴー・ルールの適用を受け、追い抜かれた確認を受ける」などの適用を受けることがある。
補足説明
- ドラフティング走行許可は、英語では、Drafting Free, Drafting allowed, Drafting Legal, Drafting rule eliminated などがあり、ITUでは、Drafting Legalを統一的に使用する。なお、一般に Drafting Race(ドラフティング・レース)とした場合、許可レースを意味する。
- ITUが管轄する大会で許可されるのは、「トライアスロン(51. 5キロ)とデュアスロン(55キロ: 10k Run, 40k Bike, 5k Run )世界選手権のエリート/プロ部門(一般部門は禁止)とそれぞれのワールドカップ、インドア世界選手権でのみ許可され、男女は完全に分離される。
ジュニアについては、「ジュニアー・エリート」に対し許可される。
- 一方、トライアスロンとデュアスロンの「ロングディスタンスの世界選手権」では、いずれも禁止される。
- ドラフティング(許可)レースが、基本的に周回コースで行われるのは、監視救護体制の密度が高まることが第一の理由である。
- ドラフティングが公式大会で許可された初の大会は、94年にロシアのサンクト・ペテルスブルグで開催された「グッドウィル・ゲーム」である(98年は、米国ニューヨークで開催)。世界選手権では、95年のメキシコ・カンクン大会であった。デュアスロンでは、イタリア・フェラーラの96年度の世界選手権からである。
- 日本の公式戦での実施は、94年の大阪ワールドカップであった。
状況例
- サイクルロードレースのドラフティング・レースでは、先頭交代が競技者間での基本了解事項である。トライアスロンでのドラフティング許可でも同様であるが、ルールとして規定されるものではない。そのため、導入当初は、競技者の技術と体力に差があり、先頭交代がスムーズにいかない状況があった。
- 今日においては、ほぼ問題なくレースが展開されるが、例えば、小柄な日本選手に欧米の大柄な競技者が付いてもドラフティング効果が薄いなどという話しも出てくる。
- また、参加者自身も転倒に巻き込まれることは、“覚悟”し、緊急時を心得ながらレースをすることになる。いずれにせよ、レース後につきものの“問題”は大幅に改善された。
判断例
- マーシャルがこのレースで行うことは、テレビ報道車両の監視、周回遅れのコースアウト、観客の安全管理などであり、バイクマーシャルは最小限となる。業務は、少なく見えるが、一瞬たりとも気が抜けない緊張感は通常のレースより高ともいえる。

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