JTU競技規則<改定案と補足説明と事例集>
第10章 上訴 第38条(上訴規定)
第38条(上訴規定)
- (定義) <一部修正>
- 上訴は、審判長(レフリー)の裁定に再考を求めるものである。大会上訴委員会が聴聞会を開催し、審議決定する。
- 競技者本人または代理人が、大会本部に上訴申立書を提出し、上訴金を預託する。上訴者は、事実関係を明確に(立証)することが求められる。
- 「ドラフティング、危険行為、スポーツマン精神に反する言動などの判定」に対する上訴は受入れられない。
- (以下、削除)(上訴の方法)上訴は書面にて大会本部に提出する。上訴に当たっては別項に規定の供託金を必要とする。
- (上訴申立書)
上訴申告書には次の事項を明記する。
- 上訴者の氏名(署名)、レースナンバー(ゼッケン)、連絡先
代理人の場合は氏名(署名)、年齢、代理競技者名、レースナンバー、連絡先
- 上訴の時間
- 上訴の内容
- 違反を発見した場所、時間
- 違反の対象とされる競技者名とレースナンバー
- 違反状況の説明と図解
- 現場の目撃者氏名
- その他上訴を補足するための事項
- (預託金)「供託金は今後使用しない」
- 上訴には10,000円を預託する。預託金は上訴が受け入れられた場合は返還する。
<検討案:10,000円を 5,000円とする案。ITUは50ドル>
- 一般大会における預託金の額は10,000円を超えない範囲で大会規定で定める。
- (上訴の処理)
- 上訴書は、大会上訴委員会が管理する。
- 上訴内容は、聴聞会の前に対象となる競技者・役員に告知される。
- 聴聞会の開催日時は、事前に発表される。
- 大会上訴委員長が、聴聞会を開催する。上訴者、被上訴者あるいはそれぞれの代表者が出席する。上訴者が不参加の場合、聴聞会は延期されるか中止される。
(削除:大会上訴委員会は、上訴者の不参加を確認する)
- 上訴者や被上訴者、各代理人が出席しなかった場合でも、大会上訴委員会の裁定を認めなければならない。
- 各代表者は、上訴委員長が認めた場合、聴聞会への出席が許される。
- 聴聞会は一般に公開されない。
- 大会上訴委員長は、上訴申告書を読み上げる。
- 上訴者と被上訴者は、それぞれ状況説明に適切な時間が与えられる。
- 証人(各2名)は、それぞれ3分ずつの証言時間が与えられる。
- 大会上訴委員会は事実関係を確認し、多数決で裁定する。
- 裁定結果は、公式掲示板に表示され、必要に応じ文書にて告知される。
(以下、削除:補則:大会により大会実行委員会が大会上訴委員会を代行し聴聞会を開催する場合がある>
補足説明
- 95JTUルールブックでは、「審判長と技術代表が兼務できる。大会上訴委員会が構成されないときは大会実行委員会がこれを代行する。上訴を審判長が受け取る」などを規定しているが、これらは初期の頃の規定であり、これらを改定する。
改定の目的は、それぞれ利害を一致する大会関係者が「裁定を行い同時に抗議を受けるという矛盾」を解消するためである。
- さらに、JTU主催大会以外でも、「上訴委員会」が競技者の権利を守るための重要な機能を持つことを理解し、個々に上訴委員会を制定することを奨励する。
- JTUルールの「上訴規定」は、ITUが規定する Protest (抗議)と Competition Jury (大会陪審員団/審査委員会)を参考にし、日本のトライアスロンに適合した形として導入している。
- ITUでは、「抗議」を Competition Jury が、50ドルの預託を受けて、聴聞会を開催して対応する。ITUでは、Appeals (上訴)は、抗議同様に50ドルの預託を受けて段階を追って審判長(レフリー)の裁定への再考を行う。その段階は次のとおり。
- 第1段階(レベル1): Competition Jury (大会陪審員団/審査委員会)
- 第2段階(レベル2):上記裁定に不服の場合、ITU理事会に上訴
- 第3段階(レベル3):上記裁定に不服の場合、ITU総会に上訴
- 第4段階(レベル4):上記裁定に不服の場合、CAS: Court of Arbitration of Sport(スポーツ調停裁判所。本部スイス・ローザンヌ)に上訴できる。ただし、ここでの決定を最終とする。
- JTUでは、ITUが Competition Jury (大会陪審員団/審査委員会)と規定するものを上訴委員会と意訳し、運用している。
- JTU上訴委員会は、ITU同様に技術代表が指名する。組織は次のとおり。
- JTU理事。または、理事会より派遣された委員(上訴委員会の議長)
- 技術代表
- 大会主催者代表
- JTU技術委員。または、派遣委員。
- JTUメディカル委員か主催者医療委員。または、派遣委員。
- ITUワールドカップでは、上記の1)から3)で構成。世界選手権は、1)から5)のフルメンバーで構成する。また、原則として同一の加盟団体から2名以上(1名のみ)の指名を認めない。ただし、現実には、各自が委員を兼務していることがあり、いずれの組織を代表するかで判断されることがある。
上訴委員会あるいはITUの Competition Jury (大会陪審員団/審査委員会)の要点は、それぞれ立場の違う者が、《競技者の権利》を守るために、三権分立の理論に基づき構成することである。
- 国際スポーツ調停裁判所(CAS)は、膨大な予算を要する一般訴訟に発展しないよう、スポーツ界の内部で簡易にそして迅速で確実に調停を行うことを目的に制定されたものである。
国際オリンピック委員会(IOC)が主導し、本部はスイス・ローザンヌに独立した機関として設置されている。近年は、オリンピックの開催地に委員が集まり、現場で調停が行えるシステムを導入している。
- トライアスロンでは、大会上訴委員会での調停に不服があった場合は、後日、所轄競技団体の理事会に上訴することと規定されている。
今後の迅速性を考慮し、大会現場に理事会機能が導入されれば、「トライアスロン調停裁判所」の機能が発揮されるかもしれない。
状況例
- バイクコースに砂利が散乱しており、危険と感じたため急ブレーキを掛けた。ドラフトゾーンを守りながらもギリギリに追随していた後続競技者は、エアロポジションのため瞬時にブレーキに手が届かず、急ハンドルを切った。その結果、転倒した。前走の競技者は、これに気づいたが、気になりながらも競技中の勢いでそのまま行ってしまった。
これを目撃したバイクマーシャルは、審判長に報告。その結果、「不可抗力とはいえ、競技者は結果に対して責任を負うべき」との根拠から、失格の裁定となった。
納得できない。「危険行為に関する判定には抗議も上訴もできない」とする規定は理解していたが、これでは余りに一方的な審判長裁定である。上訴することを決めた。
判断例
- 該当競技者は、後方の競技者が転倒したとき、理由のいかんにかかわらず救護をしようとしたかどうかが社会的良識として問われるかもしれない。
- 転倒した競技者が、その後もレースを続行できたとしても、終了後に審判長あるいは大会本部に状況説明のために、自己申告をすることが適切であったろう。
- 転倒した競技者にも状況説明の自己申告が求められる。
- 審判長は、失格の裁定前に、双方の競技者を呼び、状況を確認すべきであった。さらには、審判長裁定を出す前に、技術代表や運営責任者に状況確認をするべきであった。
- このような周辺状況に関係者が配慮していたら、上訴には至らなかったかもしれない。
- 上訴委員会では、ルール条文に従い、「危険行為に対する審判長判定を覆すべきではない」だろう。さもないとこの制度は有名無実となってしまう。
- 審判長裁定は、そのままであり、誠意を持ってこの決定を競技者に伝えるべきだろう。また、上訴を受けるにあたっては、ルールをはっきりと伝え、このようなケースでは、預託金の返却の可能性が少ないことも伝えるべきだろう。
- ただし、「各種の改善要求の意見は受け入れた」と柔軟に判定すれば、預託金を返却する正当な理由になりえると判断したい。上訴委員会は、周辺状況を広く理解し、双方納得の行く「調停」を行う組織であることを忘れてはいけない。
第38条(上訴規定)
- (JTU理事会以上への上訴)
- 大会上訴委員会の裁定に不服がある場合は、JTU理事会に申し立てることができる。上訴申し立ての期限は、裁定が発せられてから、14日以内とする。
- JTU理事会の裁定に不服の場合はJTU評議員会(総会)に申し立てる。ただし、理事会の裁定が発せられてから、14日以内にJTU会長宛に書面にて上訴申し立ての手続きを行なう。
- JTU理事会以上への上訴は、JTU主催・共催・後援大会の大会上訴委員会が発した裁定に対してのみ行うことができる。
- JTU理事会、評議員会(総会)は、必要に応じ、上訴を扱う裁定委員会を組織する。
- 預託金は10,000円とし、上訴が受け入れられた場合は返還する。
- 最終の裁定機関は、JTU評議員会(総会)とする。
(以下、削除)JTU評議員会(総会)の裁定に不服の場合は上部組織に上訴することができる。
補足説明
- 「JTU評議員会(総会)の裁定に不服の場合は上部組織に上訴することができる」を上記のように改定する案は、現状では、JTUの上部組織である(財)日本体育協会や(財)日本オリンピック委員会(JOC)に、JTUの調停を任せる体制に至っていないことがある。また、調停のための時間が余りに長く掛かりすぎることもある。
- さらには、トライアスロン内部のことは、競技者も競技団体もともに理解しあい問題解決にあたりたいとする決意の表明ともいえる。
- ただし、JTU評議員会(総会)でも解決が難し上訴を受けた場合は、これら上部団体に別途相談し、問題解決を促進することは必要であろう。
状況例
- 主催者と競技団体が、コース設定や運営について解決できない問題を抱えた。双方の立場から解決の糸口さえ見つからない。理事会の裁定は、「解決に努力するためにそれぞれ代理者を立てる」ことであったが、いま一つうまく機能しない。
- そのため、この件が、評議員会(総会)に持ち込まれた。
判断例
- 現実にこのようなことが起こったわけではない。しかし、将来的に起こりえることかもしれない。現実に過去に開催された世界選手権での問題が、スポーツ調停裁判所に持ち込まれたケースがある。
- トライアスロンやデュアスロンは、着実に進展しており、将来的な展望は明るいものだ。しかし、一方で、大会に係わる各種要因が増えれば増えるほど、問題の種は多くなるに違いない。
- 大会は、一般社会と隔離して行われるものではない。そして、関係者同士の関係は、すべからく感情豊かな人間が関与して動いていることを忘れないでいたい。
トライアスロンの理想は、「競技者、審判員、主催者、地域社会、スポンサー、メディア、所轄警察そして競技団体」のより良い調和により作られるものである。

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