「鉛直P速度」とは :P.10の「風向・風速」の鉛直成分を気圧座標系で表現したものです。
「鉛直P速度」は、大気塊の鉛直方向(高度)の「速度変化」でなく、「気圧の変化」を表します。
「鉛直P速度」は、大気塊が流体として存在し、かつその上昇流・下降流の[存在]を示します。
「鉛直P速度」は、上昇流中の湿潤暖気、下降流中の乾燥寒気の存在を暗示します。
「鉛直P速度」は、減少すれば低気圧、増加すれば高気圧を予測させてくれます。
「鉛直P速度」は、ΔP=−ρgΔZ の式により絶対座標系の[高度]、[速度]と関係づけられます。
Zが増加すれば(上昇流を意味します)、Pはマイナスで気圧は低下します。
天気の予想への応用 :−−>上昇流、下降流の[存在]を推定すること、に用います。
上昇流、下降流の[存在]をベースとして、大気を立体構造的に把握し、
大気の状態を思考空間に、Virtual realityとして描き出します :
・大局的には、大規模・広域、総観規模的な大気の上昇、下降を把握します。
・局所的には、数値予報モデルのメッシュ以下の規模の対流はモデル化できませんので、
ある地点の大気構造のデータ(エマグラム)から、予測につなげます。
・局所というより、1地点における物理量(気圧、温位、相当温位等)の
単位時間あたりの鉛直方向の変化量に着目し、大気の状態の変化を把握します。
−−−>その地点の大気の安定性・不安定性、天気の変化の予測・推定に結びつけます。
「見方」 :「鉛直」と言っても、「真っすぐ上」だけでなく、温暖前線面や山岳斜面を
滑昇する大気も「鉛直」運動をしていると、見なすことができます。
「鉛直P速度」即ち、鉛直流が生じる[理論的]根拠 :
大気の鉛直上昇流は、次の4種の原因が考えられます。(下降運動はそれらの逆の現象です)
・前線や山岳斜面等による強制上昇(外力により持ち上げられる)
水平の運動エネルギーが鉛直の位置エネルギーへ変換される。
・大気内部に含まれる水蒸気凝結の潜熱による密度低下による浮力獲得による上昇
水蒸気の内部エネルギーが熱エネルギーへ変化し、空気へ与えられる
・大気が太陽熱等外部からの加熱を受けて上昇する
加熱された大地の熱エネルギーが接地している空気へ与えられる
・鉛直方向の正渦度発達による上昇<−−負圧により引っ張りあげられる?
渦エネルギー−−−>上昇エネルギーヘ変換か?(下層の正渦度+上層の発散の存在?)
鉛直流の速度は、地衡風からは算出できません。 プリミティブ方程式の解として求めるべきで
しょうが、鉛直流の風速を観測することが困難なためか、通常はオメガ方程式から算出します。
なお、直観的、近似的には dp=ρgdz を逆に考え、dz=1/ρg・dpから、
Z方向の速度がもとめられます。P.41 鉛直P速度の計算を参照して下さい。
プリミティブ方程式(P.66参照)における「鉛直P速度」の関与についての考察 :
(基本的には、P.10 の「風向・風速」と同じ考え方です)
1.運動方程式は、風そのものの位置、速度を表すものです。従って、鉛直流も計算
できるはずですが、実際はオメガ方程式で計算します。
2.気体の状態方程式は、鉛直P速度を求めるためのものではありませんが、
常にこの式が成立しています。制約条件として機能します。
3.質量保存則は、制約条件となりますが、鉛直P速度を決めるものではありません。
4.熱力学の第一法則は、外部仕事と内部エネルギーの関係を表すものです。
水蒸気の凝結の潜熱==>外部仕事==>浮力==>鉛直P速度を得る、
の構図となります。
5.水蒸気量保存則は、鉛直P速度とは直接関係ないようです。
その他の法則等との関連:
エネルギー保存則−−−>大気塊を質点と見なす事ができるときの風速や高度が関係します。
ベルヌーイの定理−−−>流体のためのエネルギー保存則です。風速、高度、気圧と関係します。
渦位保存則−−−−−−>鉛直P速度が上昇・下降流の高度・速度に関係しますので、
渦位保存にも関係しそうです。
角運動量保存則−−−−>回転運動と鉛直P速度とは直接関係しないようです。
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