JTU運営規則<改定案と補足説明>
第5章 水泳競技(スイム)
第17条(概要と大会実施・変更・中止) <1.は第1章に移行>
- スイム競技は、競技環境によりさまざまな影響を受け、特殊な状況が発生することがある。そのため下記においては、総合的な判断により「競技内容の変更・競技の中止」など状況に応じた適切な対応をする。
- 「波高」が高くスイムが困難な状況が予想されるときは、競技内容の変更・距離短縮などを検討し、救助体制が十分とれないと判断された場合はスイムを中止する。
なお、波高は「有義波高」で示され、各海水浴場・海浜の所轄機関によりそれぞれの地形環境に則した注意報・警報の発令基準が設定されている。そのため主催者はこれを考慮する必要がある。
- 「注意報(強風・波浪・大雨・濃霧・雷)」が発令された場合は、現場の競技環境を考慮し、競技内容の一部変更により競技ができると判断された場合にのみスイムを実施する。
- 「警報(暴風・波浪・高潮・大雨)」が発令された場合は、海や一般河川でのスイムを中止する。ただし、これらの影響が少ない港湾内やプールでの実施は、現場での状況判断による。
- 「潮流」が速く競技者がコースに沿って無理なく泳ぐことが困難と判断された場合は、コース変更、距離短縮などの対応が必要である。
- 「低水温」による競技者への影響は、個々の競技能力、ウェットスーツ着用の有無さらにはウェットスーツの形状によるところが大きい。そのため、第20条(水泳の安全管理)の競技距離・選手区分によるウェットスーツ着用基準と制限基準タイムを順守する。
距離の短縮や競技を中止するための最低温度の基準は、大会の競技環境と安全管理体制および競技者区分を考慮し決定する。
また、コース各地点の水温変化が著しい場合は、競技者に対する特別な注意が必要である。
- 「危険生物(クラゲ、鮫、他)や危険物・不適状況(赤潮、流失オイル、浮遊物、汚物、他)」による危険・悪影響が予想される場合には、これらを取り除くか防御するための方策を講じる。これらが十分にできない場合は距離短縮、コース変更を含む競技内容の変更を行う。
- 「競技内容の変更予定計画(距離短縮、コース変更、スイムからランへの種目変更など)」は、大会前日あるいはそれ以前に競技者および関係スタッフに周知徹底しておく必要がある。
- 「競技内容の変更・中止の決定」は、競技スタートの1時間以上前には行い、競技者および関係スタッフに敏速確実な伝達指示を行う。
補足説明
- スイムの実施については、上記が基本となるが、分かりやすい判断基準は、「予定されていた監視救助体制が取れるかどうか」である。
- 主催者に求められることは、多少の競技環境不良でも対応できる《余裕ある監視救助体制》を計画し準備することである。これにより、俊敏な動きが難しいスイムでの対応がより良く、十分な力を発揮できる。
- スイム状況は常に微妙に変化し競技者に影響を与える。一般競技者は無理でも、選抜されたエリート選手は、距離短縮により可能となる場合がある。そのため、大会では競技レベルによるウェーブ区分を行うことが有効となる。
事例
- 選手権レベルの大会で、前日の水温が21度を数度上回っていたので、ウェットスーツの着用禁止「予想」を公式掲示板に発表した。しかし、大会当日クラゲの発生が確認されたため、対策会議で、ウェットスーツ着用を許可(義務でない)したところ、持参していない選手から抗議があった。
これは、気象予想と同じく、当日に変化したことは主催者責任とはいえず、選手が状況の変化を予想して備えるものだ。ただし、クラゲの発生なども統計的に予想できるもので、「その場合は、ウェットスーツ着用を許可する」ことを公式掲示板に付記するとなおよかったであろう。
第17条+追加案(競技開始後の事故発生と緊急対応) 全文追加
競技がスタートした後の「競技環境の悪化」や「問題発生・重大事故」などに対する対処方法は、それぞれの要因によって異なる。
競技者は、外的要因により身体の内的変化をともなうもので、事故に遭遇する要因を確定することはむずかしいが、総合的な判断により競技を続行するか、あるいは中止するかを決定しなければいけない。
基本的な判断基準は、事故が競技者の不慮による場合で、主たる理由が「内的要因」と考えられるか、あるいは環境の急変や救助体制の問題など「外的要因」が主であったかである。
それぞれの原因を調べ、現場で緊急処置が取れる体制をつくるとともに、その後に予想される問題を分析し、総合的な対策を行う。
- 競技環境の急変など外的要因による危険状況が発生した場合
天候(雨・風)の急変、急激な波の変化、一部コースの崩壊、危険生物や浮遊物のコース侵入など、緊急対策が必要な状況では、次を基本に対処する。
1)各担当レベルでの確認と現場での緊急対応 2)本部への状況報告と本部指示の実施 3)対処結果の報告 4)その後の経過報告
- 競技者の内的要因を主とする事故の場合
- 心臓マヒ/溺れによる場合:
スイム競技中の心臓マヒや溺れによる重大事故が発生した場合、現場での応急処置を施すとともに、次のことを確認し対処する。
<自然環境の急変の確認と対応>
波の状況、水温、潮流・水流などの急変が理由である場合は、スイムの全面的な中止を検討する。
<物理的な救助対応の良否>
救助方法が的確で迅速に行われ、競技者を救助できたかどうかを判断する。もし、対応に著しい不備があった場合は、スイムの中止が求められる。
バイク・ランには支障がないことが予想されても、スイム救助に不備があったことは、他でも十分でない可能性があり、慎重な対応が求められる。
<競技者の内的問題と判断された場合>
前状況に該当せず、競技者の不慮の事故と判断され、この事故によっても救助体制に混乱がないと判断された場合、競技の続行を基本とする。
- 交通事故・追突・落下などによる場合:
バイク競技中に重大事故が発生した場合、先ず次のことを確認し対処する。
<交通状況・危険防止対策について>
計画に則した運営が実施されていたか。コース危険箇所の対応は十分に機能していたか。これらに重大な問題があったと判断されたときは、バイクの中止が求められることがある。
<競技者自身の自己管理責任に帰されると判断された場合>
前述の状況に該当せず、競技者の不慮の事故と判断され、運営が適切に進行していると判断される場合、競技の続行を基本とする。
- 熱中症、脱水症などによる場合:
ラン競技中に起こりやすい熱中症や脱水症などに伴う重大事故が発生した場合、先ず次のことを確認し対処する。
<自然環境の急変の確認と対応>
温湿度が、予想を越えて大幅に上昇したなどの異変があった場合は、競技者に注意を呼びかける。また、総合的な判断により中止が求められる場合がある。
<物理的な救助の対応の良否>
水分補給のエードステーションは適切に配備され機能しているか、救急医療や救護が迅速になされたと判断された場合は、競技の続行を基本とする。
<競技者自身の内的問題と判断された場合>
前述の状況に該当せず、競技者の内的要因を主とする不慮の事故と判断され、運営が適切に機能していると判断された場合、競技の続行を基本とする。
- その他による場合:
競技距離や参加選手レベルそして大会特性などにより事故の形態が異なるため、あらゆる場合を事前に想定し、緊急対応を計画し対処する。
- 競技開始後の大会中止・続行の決定手順
- 問題や事故が発生した場合の連絡指示系統は次を基本とする。ただし、救急車を要請する必要がある場合は、現場スタッフがこれを行い、本部に報告する。
現場スタッフ ==> 現場審判員 ==> チーフマーシャル ==> 審判長/技術代表 ==> 実行委員長 ==> 大会会長 ==> 所轄官庁
- 審判長/技術代表、現場からの意見を関係者を交え総合的に判断し、実行委員長に報告する。
- 実行委員長は、関係責任者および所轄官庁と協議し、競技を続行するか中止するかの決定を行う。大会会長または大会責任者は、最終決定を行い、これを告知する。
- 緊急時体制で重要なことは、「@現場監視体制の充実 A緊急時対応の訓練 B競技者への緊急告知体制の確立 C避難方法の確立と競技者への事前告知 Dその他必要な体制の確立」など事前の準備である。
補足説明
- 競技スタート後に重大事故が起こったときの基本対応を適切な意思決定ができる手順を基準化するものである。
- 現実のものとなったとき、文面で表されたとおりに対応することは容易ではない。人の命がかかわるときは、いかなる理由もこれを超えることができないという判断もある。
しかし、一方で、午前中の一般レースで起きた内的要因による事故により、午後の選手権試合が中止となってしまうことも考慮しなければならない。
- ここで重要なことは、社会的な見地から、競技続行は確実な手順によるものであったことが一般社会に認められるような状況でなくてはならないことである。
- そのためには、メディア関係への対応窓口は、総務・広報担当などと事前の打合せを綿密に行い、《誤った情報》が流れないよう配慮しなければならない。
- さらに、主催者は、メディア関係者に、重大事故の際の基本方針と対処方法を事前に伝え、いたずらに誇張された記事とならない配慮が求められる。
- 一般にいう「事故」についても、事実を正確に伝えるための表現方法を研究しておかねばならない。一般に、「事故=重大事故」と受け取られる可能性が高い。たとえば、バイクでの転倒であれば、「転倒事故で軽傷」など補足して説明する必要がある。
- 航空業界では、事故を三段階に分けて表現する。Accident = Incident = Problem
あえて意訳すれば、「事故=特殊状況=問題」。「常ならざる事態」の表現には気をつかわなければ、拡大報道につながる。
事例1:
- 真夏の暑さ厳しい時期とはいえ、主として個人の内的な問題と思われる熱中症による重大事故で、それ以降の数百名近い選手のスタートが中止された。気温は季節的にみれば異常に暑いものではなく、運営は適切と判断されていたが、社会的な影響が考慮されたものである。
この判断の良否を問うことはむずかしいが、ここで考えることは、トライアスロンは厳しい環境のなかで競技することを前提に、競技者が大会に出場するものであることだ。スタートできなかった選手の多くが中止を止むなしと感じるとともに、残念がる気持ちを残して会場を後にした。
事例2:
- 犬が人を噛んでもニュースにはならない。しかし、人が犬を噛んだらニュースになる。報道の世界をやや皮肉った表現である。このことは、「トライアスロン=鉄人レース」と理解されがちな場面でも問題となることが多い。
- いわく、「鉄人死亡」「鉄人乱立」などのニュース報道は、センセーショナルに扱われがちである。言葉の語感から、「鉄人は死ぬことはない。だからニュース価値がある」このように理解しがちなメディア関係者には、「トライアスリートは鉄人ではない。一般のスポーツマン・スポーツウーマン」であることを正しく、スポーツ理論からも説明し理解願わなければならない。
第18条(スイムスタート)
- スタート位置は、すべての競技者に平等となるように設定する。
- スタート位置は、水辺から最短距離で入水が可能な陸上地点に設定する。この方法は、競技として最も安定しており「スタンディングスタート」と呼ばれる。
スタート地点からから入水までランニング距離を不必要に長くしてはいけない。スタート地点が狭い場合はウェーブグループを増やすなどにより水辺への最短距離を確保する。
- スタート地点の状況によっては、下半身が水中に入ってスタートする方法、水中に浮かびながら整列する「フローティングスタート」などを利用する。
いずれの場合も水面上に明確なスタートラインを掲示しなければならない。
- ITU国際ルールでは、1グループ最大150名の競技者に対し、スタートラインの横幅を30mを規定している。ただしスタートラインの横幅は、コース周辺状況・コース設営状況・運営内容・スタッフ配置状況および競技者の数に応じ決定される。
<備考> 削除
- (第20条スイムの安全管理)に移動
補足説明
- スタートの要点は、「走らせない」ことである。大会によりスタート地点の環境はまちまちである。このため、入水前に走らせないように各種のスタート方法が適用される。
- トライアスロンの参加者全員による一斉スタートは、関係者に衝撃的なインパクトを与え、マスコミの注目を集めた。新しスポーツの発展の歴史を評価しながらも、スポーツの区分化は推進しなければいけない。
- 「最悪を想定する」、マルチスポーツ:複合競技で求められるキーワードである。審判員そして主催者は、準備段階から最悪の状況を想定し、対応する。「どのような環境となっても、自信を持って対応できる」準備と心構えが必要である。
事例
- 昔、海外の大会で、砂浜をスタートダッシュして海に飛び込んだ選手が、たまたま打ち寄せた波の衝撃で脊椎に障害を受けた事例がある。水の力は想像を超える。
スタートで迫力を求めてはいけない。静かに入水しスタートする方法がベストである。
第19条(ウェーブスタート/時間差スタート) <表現修正、重複部分は削除>
- スタート時における競技の平等と安全のため、競技レベル、性別、年齢別などにより区分された一定人数のウェーブスタートの実施が求められる。
- 各ウェーブの競技者数は、大会区分・コース周辺状況・コース設営状況・運営内容・スタッフ配置状況により決定され、基本として1グループ250名以内を基準とする。
なお、同一ウェーブの競技者数は、少ないほど監視救助効率が高まる。さらに、競技者どうしの接触が減り競技性の向上が図られる。
<国内大会区分と出場選手数の基準>
各ウェーブ区分 | 日本選手権エリート | 一般大会 |
基準選手数 | 100-150 名 | 250名以内 |
ウェーブ時間差 | 男女の完全分離 | 3分以上 |
<ITU世界選手権と出場選手数の基準>
| エリート | エイジグループ | ワールドカップ |
基準選手数 | 75 名以内 | 150 名以内 | 100 名基準 |
ウェーブ時間差 | 男女の完全分離 | 15分以上 | 75分以上 |
<備考>シドニー・オリンピックでは、男女各50名の単独イベントが、2日間に分けて実施される。
- ウェーブスタートは、上位競技者から順にグループ構成することが基本である。コースの設定状況、交通規制状況によりグループ間での影響がないことを前提に間隔を短くすることができる。
- 国内大会でのウェーブスタートは、競技者のカテゴリーにより次のように区分する。
- 男子選手権部門(男子エリート)
- 女子選手権部門(女子エリート)
- 男子一般部門(男子年齢別)
- 女子一般部門(女子年齢別)
- 世界選手権においては、上記の他にジュニア選手権(17歳〜20歳未満)の男子・女子部門が設けられる。
- 各部門間のスタートは、15分以上の間隔を開ける。ただし、各グループ間のスタート時間差は、大会区分、コース周辺状況、コース設営状況、運営内容、スタッフ配置状況により決定する。
周回コースのドラフティングレースでは、男女を完全に分離できる時間設定をする。周回コースでは、1時間15分以上、直線・往復コースでは、15分以上とする。
<ITUウェーブ区分>
各選手権部門の競技者は、いずれのグループも男女を完全に分け、エリート、ジュニア、エイジグループ別に区分する。エイジグループ区分例は、20〜24歳部門と25歳〜29歳部門を同一ウェーブとし、5歳ごとに区分を30歳代、40歳代、50歳代と同一ウェーブとしている。さらに、60歳以上を一区分とする。
- 各ウェーブグループは、スイムキャップで色分けをする。スイムキャップには、レースナンバーを記入する。
- スタートは、スタート合図により引き上げられるしっかりとしたロープ類でコントロールする。スタッフを適切に配置し不正(フライング)スタートを防止する。
- 各ウェーブグループのスタートに関し、集合・スタート時間についての明確な指示を行う。
- 最終カウントダウンの秒読みは不正スタート(フライング)を助長するため「スタート1分前」以降のカウントダウンは行わない。
補足説明
- トライアスロンに大きな影響力を持つハワイ・アイアンマンの1500名一斉スタートが、今日もなお理想と考えられる傾向がある。しかし、各国の選抜選手とはいえ、救助範囲を考えれば、不安が残る方法といわざるをえない。
- 以前は、コンピューター計測がむずかしかった。技術進歩により時間差でスタートしても計測が容易になった。技術の進歩が、スポーツを変える典型的な例である。新技術を応用し、リスクを最小限にする努力を継続したい。
- 計測は、腕や足首に計測チップを着けて、タイミングパネル(計測板)に触れる。将来は、フィニッシュ直後に、総合順位や記録が掲示されるだろう。
- ボディナンバー(ボディマーキング)についても、タトゥーシール形式がワールドカップで導入され始めた。時間の短縮と認識のしやすさ、さらに見た目の美しさを両立させている。
- 世界選手権やワールドカップでは、トップ10選手のスイムキャップの色分けが規定され、テレビ報道などに貢献している。
事例
- 国際レベルの大会で、スイムスタートのバナーをロープでくくり、これを支える回転式の持ち上げ器が開発された。しかし、強風のもとでは、バナーがたなびき、表示が見えなくなってしまう。さらに、ロープ全体が歪んで、スタートラインが不均一になってしまう欠点もあり、改善が必要である。
- 防止するために、ロープをスチールのワイアー製にして、テストしたところ、重すぎて、スタートの瞬間に対応しずらいことが分かる..。さらに開発研究が進む。
- 「トライアスロン運営は、試行錯誤の連続である。追求のしがいがある」という意見がある。「選手たちが喜んでくれる顔を見るのが楽しみだ」とも付け加えている。
第20条(水泳の安全管理) <表現修正/重複部分削除>
- 水泳競技の安全管理の基本は、いかに迅速に競技者を救護できるかである。そのため、競技者から至近距離にコースブイや救助スタッフを配置し、総合的な救助体制を確立する。
(財)日本赤十字社の統計によれば、水泳での救護時間の有効範囲は1分以内とされている。基準としては、競技者から20mないし30m以内にコースブイや救助スタッフが位置するよう計画する。
- 救助体制は、救護経験者やダイバー、船外機付ゴムボート、サーフボード、ボート、ジェットスキーの配置、およびコースロープや目標ブイの設定などにより構成する。
<備考> ITU世界選手権では、1500mの1周コースの場合、次を救助体制の基本としている。
- 「競技者へ接近可能な救助艇・ボート類(船外機付ゴムボート4隻以上、サーフボード、ボート要員など計25名以上)を適切に配置する。
ライフガードは、競技者50名につき1名の割りで配置する。
- 主要地点の救助艇は、陸上の競技本部との無線を配置する。
- 2周回コースであれば、この体制を緩和できると考えることができる。
- ITUでは大型の目標ブイと導入コースブイの設置を求めているが、コースロープを全域に渡って配置することを定義してはいない。
- コースロープ設定の密度が高ければ、さらに救助体制を緩和できると考えられるが、いずれにしても、スイム救助体制は、困難を伴うもので、各大会のコース特性により最適なものを検討する。
- コースが全域に設置されていないときは、識別しやすい目印を付けたカヌーやボートでトップ泳者を先導する。コース設定や泳者の動きにあわせ監視体制を移動する場合もある。
最終泳者および後続泳者には、監視ボートなどを付ける。
- 安全確保のために、一般にはウェットスーツの着用が奨励される。また、競技環境と大会区分により、水温のいかんにかかわらず事前に着用を義務付けることがある。
世界選手権エリート部門や日本選手権などでは、水温により使用が制限される。ただし、「不安定な競技環境・降雨・外気温が低い」などの場合は、水温が基準を上回っていても許可することがある
<日本選手権エリート部門でのウェットスーツ着用水温基準>
スイム距離 | 着用禁止 | 着用義務 | 制限基準タイム |
1500m以下 | 20℃以上 | 18℃以下 | 1時間10分 |
1501〜3000m | 23℃以上 | 20℃以下 | 1時間40分 |
3001〜4000m | 24℃以上 | 22℃以下 | 2時間15分 |
<備考>日本選手権ジュニア部門では、ITUルールに準じ、1500m 以下での着用を22℃以下で禁止する。ただし、最終決定は、大会により決定する。
<国内一般大会でのウェットスーツ着用水温基準>
スイム距離 | 着用 | 着用義務 | 制限基準タイム |
1500m以下 | 推奨 | 18℃以下 | 1時間 |
1501〜3000m | 推奨 | 20℃以下 | 1〜2時間 |
3001〜4000m | 推奨 | 22℃以下 | 2〜2時間30分 |
<備考>大会によりウェットスーツの着用は義務付けられる。
<世界選手権エイジグループ、ジュニア部門でのウェットスーツ着用水温基準>
スイム距離 | 着用禁止 | 着用義務 | 制限基準タイム |
1500m以下 | 22℃以上 | 14℃以下 | 1 時間10分 |
1501〜3000m | 23℃以上 | 15℃以下 | 1時間40分 |
3001〜4000m | 24℃以上 | 16℃以下 | 2時間15分 |
補足説明
- ウェットスーツの着用が一般化し、スイムの安全は格段に高まった。しかし、救助体制で忘れてはならない言葉は、「溺れる者はワラをもつかむ」である。
- 1分あれば最速で100mを泳げるが、救助を求める泳者は、立ち泳ぎで浮かんだままか、みずから救助を求めるために20〜30mを泳ぐ程度と想定する。
波の状況により水上での可視範囲は狭く、数十mも離れれば競技者の状況は分からないことが多い。
- 50mから100mごとに目立つブイがあり、その間を救助スタッフがいれば、「体調の変化を感じながら競技を行うべき泳者」は、余力を持ってブイに泳ぎ着くか、あるいはその場で救助を求めることができると想定される。
- 救助の最速手段がジュットスキーである。時速20qで進めば、1分で約330m。一方、手漕ぎボートは、俊敏な動きはしずらいが、競技者に最接近できる“動ける”固定監視として有効である。
第21条(スイムコース) <表現修正>
- コースレイアウトと設営
- スイムコースは、競技環境や大会区分により、片道・往復・周回コースを交差しないように設定する。コースは、コースブイ、フロートなどで明確にする。
- スタートから第1コーナーまでは、できるだけ長く直線コースを設定する。基準距離は200m以上とするが、状況応じて設定する。
- 鋭角ターンやUターンが設定される場合は、直線距離を長くとり混乱を避ける。
- 往復コースでは、往路と復路を示すマークブイを設置するかコースロープで区分する。全コースにブイを設置できない場合は、30m以上の間隔を開け、監視員を置く。
- コーナーには、大型ブイを設置する。コーナーへの導線として10mをコースロープで仕切るか、ライフガードなどで誘導し、ショートカットを防止する。
- コースブイは、50mから100mの間隔でロープでつないで設置することを基準とする。
- 距離測定
- 距離は、コースに沿った最短距離を計測する。潮流、流速などによる距離調整は行わない。
- 測定方法は、光学計測機器などにより正確を期す。規定距離に合わせたコースロープを設置することも推奨される。
- 水温
- 水温は大会前日(スタート時間基準)と大会当日のスタート1時間以上前に計測する。計測箇所は、コース中央の水深60pおよび周辺、スタート地点付近の複数箇所とする。
- 計測機器は、複数の水温計やデジタル水温計を使用する。計測値に誤差が出た場合は、平均値を基準とする。
- 前日の水温は公式掲示板に表示し、ウェットスーツ着用予想を発表する。
- 大会当日は、1時間から2時間前に計測する。
- 技術代表と審判長は、競技委員長や選手代表などの意見を参考にウェットスーツ着用の可否を決める。
- 計測結果とウェットスーツ着用の可否は、公式掲示板やアナウンスで確実に競技者およびスイム担当者に伝える。
- 水質
開催地所轄官庁の遊泳基準を満たしていること。ただし、限定的な競技水泳であることを考慮し、基準に達していない場合でも認めることがある。
- コース設定 <1.と重複多いため合体>
補足説明1
- 陸上競技であれば、厳格なコース設定基準を設けることができる。トライアスロンのスイムでは、完全に規定することはできない。そのため、前述の基準を示し、状況に応じた設定を行う。
- コース設定の要点は、スタート状況に応じた人数を決めることから始まる。狭ければ少なくする。これによりコース設定プランができる。
- そして第二点は、第1コーナーまでの距離である。一般に90度のカーブを曲がることになるが、この時点で混乱が起こる。アウトからコーナーに最短距離で集中する。
このため、第一コーナーまでの距離は、長いほどまた角度がゆるやかなほど良いということになる。
- ITUでは、基本としてコーナーまでの直線400mを基準としている。周回コースは別基準である。さらに、コーナーは90度を超えないことと規定している。
国内大会では、コース環境からUターンを設置せざるをえないことがあり、その場合は、基準に示したように直線コースを長くし、少数のウェーブ区分などで対処する。
- 適正スタート人数の設定とコース幅の決定によりスタートの良否が決まる。
- スタートバナーは、両サイドからスタッフが引き上げる方法が一般的である。見栄えはよいとはいえない。大会により、すこしづつ工夫をこらした「見栄えのする確実」なスタート方法が試されている。
補足説明2
ウェーブスタートの大会導入報告(佐渡大会例)
- 導入の経緯
それまで一斉スタート実施により、スタート直後の選手の接触によるケガ、足を引っ張られ、海水を飲み込んだ(特に女子選手が多い)などの問題が毎回発生した。
選手の足や手が顔面にあたり、前歯が折れたり眼球に傷を負ったなど深刻。より安全な方法のため、93年の第5回大会から本格的なウェーブスタートを導入した。
- 現状、課題と対応
導入の初年度、荒天のためデュアスロンとなったが、参加選手にも事前通知をしていたことから、第1ランをスムーズに実施できた。
しかし問題もあった。第2グループでスタートし2位でフィニッシュした国内選手が、優勝であることが後で分かった。
総合順位がすぐ分からないため、従来方法が良いという感想が観客からあった。また、ロングディスタンスの醍醐味は同時スタートとする意見が少なからずあった。一方で、次のように、ウェーブスタートによる期待どおりの効果が確認された。
- 全体にケガの発生が少なくなった。一斉スタートに比べ、集団から脱出しやすい。
- 一斉スタートでは、体力的にも女子選手が不利である。女子のみのグループスタートでは大幅に改善された。
- 一斉スタートでは救助を求められたとき難があった。スイムコース上で選手が分散し 、救助がしやすくなった。コースロープに近づいて泳ぎやすく安心感が高まった。
- バイクで課題となっていた集団走行が緩和された。
- 後続スタートの選手のロスタイムが少なく、記録に挑戦するスポーツ競技としての励 みを感じた。
- スイムスタートの迫力が何回も楽しめて良かった。区分されたスタートは敏速であり 間延びした感じがなくなった。
- <検討課題1>
コンピューター計測により、フィニッシュした選手が、その時点で何位なのか、レース経過により着順の変化が分かるようコンピューターのハードソフト面を開発する。また、フィニッシュと同時に、選手プロフィールが大型画面に表示することも検討したい。
- <検討課題2>
「一斉スタートであれば自分の力に応じたスタートが切れて安全。実力差があり、遅い選手に阻まれ力を発揮できない」など、ロングディスタンスの一斉スタート伝統賛美派への回答の骨子:
「現在のウェーブスタート構成は、“選手権男子・女子、5歳ごとの年齢別グループ(選手数を揃えるため同一年齢でも別れる場合あり)、そして女子参加選手数に応じた年齢基準のグループ分け」である。
これは、参加選手が個々のカテゴリーの中で競い合う、国際的にも認知された競技精神に基づくものである。そのために、エージグループ別表彰が、表彰対象としての意味を持つ。
さらに、脚部の後ろにエージグループ別にA・B・C順にアルファベットを記入し、同一グループでの競い合いを明快にする。同一年齢で分離される場合は、例えば区分記号Aを○で囲むこととする。
JTU女子委員会からウェーブスタートを推奨するコメントがある」

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