Scarsdaleの家
 
1999年10月1日
 

< わたしとカメラ・3 >

マンハッタンは、いつ行っても興味深い所だけれど、ニュ−ヨ−ク郊外もステキだ。

住んでいたウェストチェスター区は、マンハッタンから車でほんの20分程北上した所だけど、環境抜群!
緑に囲まれて民家があり、敷地が広くて垣根がないので、車をゆっくり走らせて、美しい家のたたずまいや、周りのよく手入れのされた芝生や花畑を見て廻るのはとても楽しい。

「いいなア〜〜」と思うと、もう無意識の内に車を停めて、カメラを向けることになる。
ある日、大きなガラス張りの窓辺に、大小の花瓶がいっぱい並べてある家が眼にとまった。

広〜〜い芝生の向こうの事だから、もっとはっきり見たくて、カメラの望遠レンズを望遠鏡代わりにして眺めた。
やっぱし、雰囲気がいい。これをカメラに納めておかない訳にはいかない。

露出を見たり、三脚立てたり、レンズを変えたり、何時の間にか夢中で撮影していた。
と、ス−ーー−ッと近付いて来たパトカー。
「こんな閑静な住宅地でもパトカ−が巡回しているんだな…」と感心しながら気にせず、ファインダーを覗いていた。
ところがすぐ通り過ぎると思っていたパトカ−が、私の車にピタリとくっつけて停車するではないの。。

そして尋問が始まった。
「君はそこで何をしているか?」
「写真を撮ってます。」
「なぜ?」
「きれいな家だから。何か問題でも?」
「ノ−、プロブレム。しかし、その家の奥さんが、自分の家を向いて何かしてる人がいるから恐ろしい。調べに来て欲しいと電話で依頼があったから来た。見た所、君は悪者ではなさそうだから、速く済ませて、移動しなさい。奥さんは、今から外出する予定だが心配で家を明けられないと言っておられる。」

やっと事情が呑み込めた。
そりゃそうだ、誰だって自分の家を望遠鏡の様なもので覗かれたらイヤに決まっている。
気味悪く思うのが普通だ。

しかしわたしは、「家と言うものは人が住むための入れ物」という事を忘れて、その建物自体を単なる被写体としてだけ捕らえて、撮影に夢中になっていたのだ。
 

悪かったなーー。
しかし、「お家の窓が素敵だから、ちょっと写しても良いですか?」と声をかけるには、邸宅が道路から遠すぎるし、それこそ唐突だ。つい無断で、ということになってしまう。

反省しながら、ポリスマンと話している内に、邸宅の主はガレージから車を出してお出かけになった。遠くで見えるかどうか分らないけど、頭を下げて御挨拶しておいた。

それ以来、一軒の家の前に長く留まる事はせず、サッサとシャッターを切って立ち去る様に心掛けたのである。


                        

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