1999年8月20日
 

< 母 >

母は、大正6年生まれ、82歳、食欲旺盛、お陰でとっても元気だ。
何でも美味しく食べられて、健康で居られることは大変有り難いことだと思う。

ただ肥満気味なので、足に負担がかかり、ヒザの辺りが痛いと言うことはある。
時々行く整形外科の先生に、「甘いものを減らして、少し体重を減らしましょう」と、いつもいつも注意されるのだが、「あたしは甘いもん好きやのに、そんなん言わんといてちょうだい。甘いもん食べたらアカンのやったら、やせんでもええ。」と口答えして帰って来る。
まっ、足の痛みも、好物を止めなければならない程切実ではないと言うことか・・・

7人兄弟の末っ子で、親や使用人達からチヤホヤされて育ったので、「ワガママこいさん」がそのまま年をとったようなところがあり、また父がちょっとない程家族思いのやさしい人であったので、そのまま自分本位に生きて来れたという幸せな人生である。
 

最近は私自身も恐れている忘却力、老人力であるが、当然年をとっている分、母は私より遥かに優れている。
つい先程話したことを、「知らん、聞いてへん、あんたナニ勘違いしてるのん。」と言い切られると、「ウ〜〜ム」とこちらが考え込んでしまう。

自分勝手な思い込みも押し通す。
今日も、「郵便局からお金出してきて。」というので、通帳と印鑑を預かると、印鑑が違う。
「判が違うから、これと一緒のん出して」
「そんなはずない。これでええ。」
「いや判がちごたら出されへんよ。」
「何アホなこというてんのん、それやったらあたしが一緒に行く。私が本人です、間違いありません、ゆうたらええだけや」
Oh,my good!!

母は、しょっちゅう判コを無くして、其の都度探さずにすぐ同じ判を彫ってもらうので、部屋を整理するとアチコチから出てくる。大事にしまっている積もりで、其の場所を忘れてしまうのだ。それでも同じような判コが箱にいっぱいある。本当に要るのはせいぜい2つなのだが・・・
仕方なく、箱の中をみんな調べて「これらしい」と言う候補を2つ持って行った。
 

まっ、そんな些細なことは日常茶飯事。
色々アッケにとられるような出来ごとが毎日のように出てくる。

「子供を叱るな、我が来た道。親を叱るな、いずれ我が道。」と言う人がいたが、全く其の通り。
母を見ながら、私自身の老い方の参考にしたいと思っている。
日々の事、「自分が年とった時、こんなこと言うのは止めよう。」「こんなことはしない方がいいな」と、反面教師として見ることも多い。

といっても、ひとつひとつは本当に些細なことが多いので、頭には残らない。
母のわがまま気侭を、将来自分への戒めとできるように、折々に気が付いたことを書き留めておこうと思う。

母もこの私の年代の時には、決してこんなに自己中心、頑固ではなく、人一倍気配りの効く評判の良い奥さんだったのだから、それがこわい・・・

それにしても朝日放送ラジオ「おはよう、道上洋三です」の道上さんのお話に、時々出てくる母上のエピソ−ドにはいつも笑わされる。余りにも我が母とそっくり! 其の具体例が「まさしく其の通り!」と拍手したい程。同居して毎日一緒に暮らしている人でなければ、分らないことばかりである。

そして結局の所、「年いけばみんな同じなんだな…」と納得する。
 
 
 

                        
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