さるすべり
 

 
1999年8月23日
 

< 本読み >

久しぶりに図書館へ行った。
夏休みなので、中央にある机で一生懸命勉強している学生が多かった。
窓際に所々置いてある椅子には、隙間もなく年輩の人達が陣取って読書。
そして「子供の本」のコ−ナーには一杯子供達が来ていた。
涼しい所で好きな本が読めて、ありがたいことだ。

私には、一生後悔していることが唯ひとつある。思い出すだけで胸が痛む。
娘達が小さい時、夜寝る前のひとときに、本を読んであげるのが習慣だった。
娘二人は年子であったので、幼い時期は何をするにも二人一緒。
夜寝る時も当然二人並んで、一日で一番嬉しいこの読書タイムを心弾ませて待っているのは良く
分かっていた。。

寝室に行くと、「待ってました!」とばかりに二人がそれぞれ読んで欲しい本を持って来る。
「サア、今日はどのお話かな〜〜?」と、読み始めるのだが、頭の中はまだ今日中にするべき仕事や、自分自身のしたいことがグルグル廻っている。
幼子二人に振り回されて、一日慌ただしく過ぎ、寝るまでのひとときは自分にとっても貴重な時間だからだ。

そんな訳で、つい子供に読み聞かせる言葉も早口になってしまう。「早く読んで早く解放されたい」と言う気持ちが無意識の内に出てしまう。「一晩にお話ふたつ」と約束していても必ず必ず「もうひとつだけ、ネッ、お願い!」と二人声を合わせて懇願する。でも余程心に余裕のある時以外は、大抵無慈悲にも「お約束は守りましょう。。」なんていって、「おやすみなさい」を強制させていた。

どうしてもっと心ゆくまで読んでやらなかったんだろう。
どうしてわずかな時間を惜しんで、子供の願いを聞いてやらなかったんだろう。どうして…どうして… と自分を責める。

「もっと読んで欲しかった…」と言う欲求不満のまま眠りにつくのと、「楽しいお話聞いてる内にそのまま夢の世界へ入ってしまった…ムニャムニャ…」というのと、どれだけの差があるか、想像に難くない。

子供達が自立し、私自身も心にゆとりが出てくると、此の後悔はず〜〜と心を悩ませてきた。
せめてもの罪滅ぼしに、娘達に子供が出来たら、其の時にはもういくらでも本を読んであげよう! 
きっと子育て中の娘達は忙しいだろうから私があの時の分まで、いっぱいイッパイ孫達に読んであげよう!
それが今の私の一番の願いだ。

と言っても孫が居ないことには叶わぬ願いだ。
娘達よ! 仕事に生きがい感じるのも好いけれど、そろそろ子作り考えてくんないかな〜〜

ところで、先日我が親友オセツと待ち合わせた時、「ちょっと本屋さんに付き合ってね。」と言う。
イギリスに住む3歳の孫に絵本を送ってあげるのだという。
このオセツ、ちょっとない程良妻賢母! 自分を無にして夫に従い、子に尽くし、私など足下にも及ばない。

<妻><母>の鑑だと常々思っている。書道、琴、三味線、ピアノ、謡曲、日本舞踊、とお稽古ごとは師範級なのに「能ある鷹は、爪隠す」風で、滅多に披露することもない。お料理はまたまたプロ級で、いつも客人の多いことも苦にせず、手早く御馳走を作る。御主人は、オセツの作る食事しか気に入らないので、絶対単身赴任はしない。海外、国内を問わず、いつも一緒…

そんな彼女であるから、さぞかし子育てにも後悔なんてないだろう。と思って聞いてみた。そしたら何と何と、予期せぬ返事が返ってきた。「ト〜〜〜ンデモナイ! 私なんて、子供が小さい時は早く寝てくれることばかり願って、ロクに本なんて読んでやらなかった。」ですって!!
やっぱり子育て真っ最中の頃は皆同じなのかな………

ちょっとだけ、心の重荷が軽くなったような気がする。
 

                        
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